がん治療継続をアシストするアピアランスケア

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近年、がん治療の分野で注目されているのが「アピアランスケア」です。「アピアランス:appearance」とは、外見のこと。がん治療に伴う外見の変化に対し、適切なケアをすることで、患者さんの精神的な負担を軽減するものです。東京大学医学部附属病院がん相談支援センター副センター長でカバーメイク・外見ケア外来を担当する分田貴子先生にアピアランスケアが患者さんにもたらす効果についてうかがいました。

「アピアランスケア」とは?

がん治療に伴い、脱毛や肌色変化などの様々な見た目の変化が生じます。これらに対し、ウィッグやメイクなどの適切なケアを行うことで、患者さんの心理的・社会的負担を軽減するのが「アピアランスケア(外見ケア)」です。

「アピアランスケア」が重要になってきた背景

まず、がん患者さん自体が増えています。また、補助化学療法の普及により、治療期間も長くなりました。一方、かつては入院で行っていた化学療法も、通院で行うようになっています。こうして、「暮らしながら、働きながら」治療する患者さんが増えてきたことで、「治療に伴う見た目の変化」の問題が、患者さんのQOL(生活の質)に直結するものとして重視されるようになってきたといえます。
治療による見た目の変化は、治療に向き合う姿勢にまで影響することもあります。そこで、「外見変化へのケアを行うことで、治療に前向きに取り組んでもらう」という考えも出てきました。

アピアランスケアががん患者さんの心にもたらす影響

肺がん治療後の70代女性から、分子標的治療薬による下腿の皮疹跡に対するカバーメイクの相談を受けたときのことです。初めは、明らかに“気乗りしない”様子で、「別に気にしていません。看護師さんに”相談してみたら”といわれたので来てみただけです」と話されていました。しかし、カバー用クリームを塗り、皮疹跡が目立たなくなると、表情が一変しました。

「本当は(皮疹跡が)とても気になり、いつもズボンで隠していました。これでスカートがはけます。友だちとの旅行にも行けます」と笑顔がみられたのです。

患者さんが「どうすることもできない」と思っている悩みにケア(対処)の可能性が示されることで、心に封印していた「あきらめ」や「我慢」が表出される、そんな場面に遭遇することもよくあります。

アピアランスケアの現状

私が外見ケアの問題に取り組み始めた2009年頃、この問題を深刻に受け止めていた医療従事者は、それほど多くなかったと思います。その後、外見変化が患者さんの心理的負担になっていることや、アピアランスケアによって患者さんが満足される様子などが伝わるなかで、少しずつ関心を持ってもらえるようになりました。

しかし、アピアランスケアに対する意識には診療科や個々のスタッフにより大きな差があり、専任のスタッフが知見に基づいたアピアランスケアを行う医療施設は十分とはいえません。

アピアランスケア普及における薬剤師への期待

薬剤師は、がん治療薬の副作用を説明する際にも患者さんとのコミュニケーションを通じて、さまざまな悩みをキャッチしていると思います。外見の変化が話題になる機会も多いのではないでしょうか。

治療に伴う外見の変化に対して、薬剤師から「こういうケアがある」「相談できるところがある」などの情報を伝えるだけでも患者さんの心理的な負担が軽減し、がん治療継続のアシストになると思います。

「見た目の変化は相談するものではない」と思い込んでいる患者さんもいるかもしれません。「髪や肌など、見た目の変化に関する悩みもお知らせください」といった一言を加えることで、悩みを打ち明けやすくなることもあると思います。

最近では、アピアランスケアに関心を持つ薬剤師も増えています。薬剤師のみなさんのアピアランスケアへの積極的な参加を期待しています。

東京大学医学部附属病院 乳腺・内分泌外科助教
がん相談支援センター副センター長
分田 貴子 先生

1994年東京大学教育学部卒業後、医師を目指し2002年に同医学部医学科を卒業。同大学附属病院での研修を経て、2008年より国立がん研究センター中央病院で免疫治療の研究に従事。がん治療に伴う患者さんの外見変化の問題に直面し、対処法としてカバーメイクの研究、普及に尽力。2013年に東京大学医学部附属病院カバーメイク・外見ケア外来を開設。

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