矛盾する感情の想起

矛盾する感情の想起」は、患者さんが抱く相反する2つの感情のうち、どちらか一方が出たときに、隠れているもう一方の感情を引き出すためのコミュニケーションスキルです。
患者さんが悩みや問題、症状などを訴える場合は、矛盾した2つの感情を持っているものです。しかし、患者さん本人はそのことに気づかず、どちらか一方の感情しか訴えてこないことがしばしばあります。
そのようなときに、「矛盾する感情の想起」のスキルを使って、隠れている方の感情を引き出すと、患者さんの抱える問題の本質が見えやすくなります。

スキルアップポイント

  • 患者さんが悩みや問題、症状などを訴えてきたら、その発言を額面通りに受け取ってよいかどうか、患者さんがどんな感情を抱いているのかなど、ちょっと立ち止まって考えてみましょう。気になった発言を聞き流さないことが重要です。
  • 「共感的繰り返し」や「共感的要約」といったスキルを使い、患者さんが話しやすい雰囲気をつくりましょう。そのうえで、「何かほかのお気持ちがあってのことでしょうか?」など、「開いた質問」を投げかけることで、患者さんの胸の内にある「矛盾する感情の想起」を促します。
  • 患者さん本人や服薬を管理する家族が薬剤をよく理解しているか、また、医師とのコミュニケーションが良好であるのかどうかなども確認し、信頼関係を損ねることのないよう、適切な対応をしていきましょう。
  • たとえば、「腕のいい先生でこれからも診てもらいたいけれども、薬に関することは話しにくいのでためらう」など、患者さんは相反する気持ちで迷うことがあります。薬剤師は、訴えの背後に矛盾した感情があることを念頭に置き、それに光を当てて問題の核心を明らかにするという意識を持つことが大切です。

患者さん「やっと来週退院できます。本当によかったです。けれどもねえ…」
薬剤師 「退院できるのはうれしいけれど、ほかのお気持ちもあるのでしょうか?」(←矛盾する感情の想起のための開いた質問)
患者さん「私の世話で家族に負担をかけてしまうと思うと申し訳なくて…」

井手口先生からのワンポイントアドバイス

薬剤師は患者さんと向き合うとき、2つの仮説をもって接することが大切です。
患者さんの悩みの背景には必ず矛盾する感情が存在します。
患者さんが何かを訴えたとき、それは「矛盾を抱えて悩んでいる」そして「薬剤師に何かを期待している」ということです。薬剤師の意見を押し付けるのではなく、患者さん自身が決定できるように、矛盾をはっきりさせるスキルです。

帝京平成大学 薬学部 薬学科
教授 井手口 直子 先生

帝京平成大学薬学部 教授
博士(薬学) 博士(教育)

帝京大学薬学部薬学科卒業
株式会社新医療総合研究所代表取締役
日本大学薬学部専任講師、帝京平成大学准教授を経て2013年より現職

この記事は2021年4月現在の情報となります。

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