対決
「対決」は、患者さんの中にある矛盾する2つの感情を突き合わせ、自己決定を促すコミュニケーションスキルです。
患者さんの矛盾する2つの感情を薬剤師が丁寧に並べて示すことにより、患者さんは自らが抱える悩みや、問題の裏側に感情の葛藤があることに気づくことができます。
2つの感情のうちより強い感情を患者さん自ら選択するように促す「対決」のスキルは、服薬行動の変容を生み出すため、薬物関連問題の解決にダイレクトにつながるといえます。
スキルアップポイント
- 「対決」というコミュニケーションスキルは、「矛盾する感情の想起」とセットで使うことにより、患者さんの抱える問題の解決に結びつきやすくなります。まず、「矛盾する感情の想起」で、患者さんの中に矛盾する2つの感情があることを明らかにし、次に、それを言葉にして並べてみせます。
- 矛盾する2つの感情は、明確な言葉で対比させましょう。たとえば、「ご友人のお話から片頭痛のお薬はちょっと怖いというお気持ちと、片頭痛はつらいしよく効くお薬だから持っておきたいという、正反対のお気持ちがあるのですね」などと問いかけます。そのうえで、「○○さんは、どうしたらよいと思われますか?」と穏やかに尋ねましょう。
- 「対決」は、ファーマシューティカルケアの場において、患者さん自らの決定により服薬行動を変える手助けとなります。「矛盾する感情の想起」などのスキルを使って患者さんの相反する2つの感情を示し、患者さんの自己決定をアシストしていきましょう。
患者さん「実は、結構お薬が余っているのです。鎮痛薬は癖になり手放せなくなると友だちに聞いてから怖くて、飲まないで我慢しています。でもそれもどうかな…」
薬剤師 「鎮痛薬は癖になり手放せなくなると聞き、飲み続けるのは怖いと思って我慢しているのですね。でもそれもどうかと迷ってもいるのですね」(←共感的繰り返し)
患者さん「ええ、そうなんです」
薬剤師 「迷っているということは、ほかのお気持ちもあるのでしょうか?」(←矛盾する感情の想起のための開いた質問)
患者さん「頭痛はつらいですから…でも、お薬を飲むとやはり効きますし」
薬剤師 「薬を手放せなくなるのが怖いというお気持ちで我慢しながらも、やはりつらいときに鎮痛薬は効くと思っていらっしゃるんですね。どうされるのがよいでしょうか?」(←対決)
患者さん「痛みが強くなれば結局お薬を飲むので、我慢は意味がないのかな」
薬剤師 「そうですね。今は専門の先生の診療を受けていらっしゃいますので、服薬のタイミングなども指示通りにされるのが、慢性的な頭痛の治療には大切ですね」
井手口先生からのワンポイントアドバイス
「対決」は患者さんへ自分が抱いている矛盾に気づかせて、自己決定させる強いスキルです。
だからこそ、優しく相手にふっとゆだねるような言い方をします。人は自分の中の矛盾に気づくと、何とか解決したいというエネルギーが沸いてきます。それをアシストするのです。
「対決」の後に出てきた発言(今回は「我慢は意味がないのかな」)は患者さんの自己決定の言葉です。その言葉が出れば、薬剤師が行う服薬指導をしっかりと聞いてもらえます。患者さんが矛盾に気づかないままでは、指導効果は減弱します。
帝京平成大学 薬学部 薬学科
教授 井手口 直子 先生
帝京平成大学薬学部 教授
博士(薬学) 博士(教育)
帝京大学薬学部薬学科卒業
株式会社新医療総合研究所代表取締役
日本大学薬学部専任講師、帝京平成大学准教授を経て2013年より現職
この記事は2021年4月現在の情報となります。