がん治療時の感染予防(2)家庭内

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感染症は「外出先でうつる」と考えがちですが、気づかぬうちに家庭内に持ち込まれていることもあります。特に免疫機能が低下しているがん患者さんは、病原菌に感染するリスクを抑えるために、住居環境を清潔に保つことが大切です。

家庭内での感染予防のポイント

家庭内での感染予防のポイントは、病原菌が棲みにくい環境にすることです。

住居環境には、土ぼこりや排気ガス、花粉などが屋外から入り込んでくることがあります。また、家庭のなかでもカビやダニの死がい、髪の毛やフケ、食品クズなどが発生します。また、衣服や寝具などから発生する繊維がほこりとなって室内に舞うことも多くあります。

ほこりは病原菌にとっては快適な環境です。たまったほこりに病原菌が棲みついてしまうこともあるため、こまめな清掃を心がけましょう。

●掃除(居室)

病原菌の棲み家になりやすいほこりは部屋の隅や静電気が起こる家電製品のコンセントまわり、家具の裏などにたまります。ほこりは軽く、掃除機の排気で舞ってしまうため、フローリングの場合はフロアモップをかけてほこりを取り除いてから掃除機をかけるとよいでしょう。

夜間に舞っているほこりが床に落ちるため、起床後すぐなど、人の動きが少ない時間帯に掃除を行うと効率的に室内を清潔に保つことができます。

また、居室内ではエアコンの清掃をこまめに行うことを心がけましょう。エアコンは内部が結露しやすく、ほこりもたまりやすいため、カビの温床になっていることがあります。その空気を吸い込むことで肺炎を発症するリスクがあります。冷暖房問わず、使用開始前に内部の清掃を行い、フィルターも定期的に清掃しましょう。

●掃除(トイレ)

トイレは家族で共有することが多いため、ていねいに掃除をして感染リスクを抑えることが大切です。

トイレの床や便器の裏にたまったほこりにも病原菌が多く棲みついています。ふだんの掃除は特別なことをする必要はありませんが、便座やふただけでなく、ペーパーホルダー、水洗レバー、ドアノブなどもていねいに掃除しましょう。

トイレ使用後はトイレの蓋を閉めてから流すほうがよいか、開けたまま流してよいか、はっきり結論は出ていません。ひと昔前は、環境汚染の観点から閉めてから流すべきという意見が多かったようですが、最近はトイレの機種側の工夫も進んできているようです。ただし、いずれの場合でも環境の汚染は避けられず、特に皮膚に触れる部分を中心とした掃除と、トイレ後の手洗いが最も効果的であるとされています。

●排泄物から感染する感染症

ノロウイルスなどによる感染性胃腸炎に代表されるように、嘔吐物や糞便から感染する感染症もあります。
もし、感染者の嘔吐物や下痢の排泄物が便器や床に付着した場合には、使い捨て手袋と不織布マスクを着用して、新聞紙などで取り除きます。次亜塩素酸ナトリウム液(家庭用の塩素系漂白剤をうすめたもの)でよく拭き取り、掃除が終わった後は手袋、マスクの表面に触れないようにビニール袋に入れて口を縛ります。掃除が終わった後は石けんで手をしっかりと洗います。

●掃除(浴室)

浴室はカビが発生しやすく、不潔な状態にあると感染症リスクがある場所です。天井やタイルの目地、シャワーヘッドなど、カビが生えやすい場所を中心に、ていねいに掃除をしましょう。使用後の浴室はよく乾燥させることでカビが生えにくくなります。

固形石けんは、濡れた状態のままでは病原菌の温床になってしまうため、使用後は乾燥させて保管します。また、同居している人と同じ固形石けんを使うのは避けましょう。液体石けんやシャンプーのボトルなどもカビが生えやすいため、使用後はボトルに水分が残らないようにします。

また、脱衣所のバスマットは使用ごとに交換し、家族と共有するのは避けましょう。家族のなかに白癬菌を持つ人がいると、バスマットへの接触によって感染します。浴用タオルやバスタオルも共有しないようにしましょう。

ペットとの接触

動物自体には特に影響がない細菌やウイルスでも、人に感染すると病気を引き起こすものがあります。がん治療中で骨髄抑制が起こる時期は、接触を避けましょう。

骨髄抑制がない時期でも動物との過度な接触(キスをする、口移しで餌をあげる、食器を共有するなど)は避けます。

また、動物の糞尿はそのままにせず、寝床は清潔にすることを心がけましょう。

家族が感染症になったときの対応

がん患者さんの感染を防ぐためには、家族の感染予防も重要なポイントとなります。特に新型コロナウイルス感染症のように、感染から発症までの期間が長いものや、無症状の場合には、家族がウイルスを家庭に持ち込んでしまうリスクが高くなります。

同居家族の場合、家庭内感染を完全に防ぐことは難しく、がん治療で骨髄抑制がある期間には、重症化リスクが高くなるだけでなく、がん治療自体への影響も多大です。

家族が感染症にかかった場合、たとえば飛沫感染する感染症の場合は、生活の場を一時的に移す、難しい場合には同じ室内に入らないようにする、接触感染の場合はトイレや浴室など、共同で使用するものはその都度掃除をするなど、病原菌が患者さんの生活の場に入り込むリスクを減らす工夫が必要です。

国家公務員共済組合連合会虎の門病院
臨床感染症科部長
荒岡 秀樹 先生

和歌山県立医科大学卒業
東京厚生年金病院内科、杏林大学医学部第一内科(呼吸器内科)を経て、2007年に虎の門病院に赴任。日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本感染症学会専門医・指導医・評議員、日本臨床検査医学会臨床検査専門医、日本化学療法学会抗菌化学療法指導医・評議員、日本臨床微生物学会認定医・評議員・理事、インフェクションコントロールドクター(ICD)の認定資格を取得

この記事は2022年7月現在の情報となります。

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