がん治療時の感染予防(4)食事
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感染症は、食品から人の身体に侵入することもあります。抗がん剤治療中で骨髄抑制があるときには、免疫機能が低下して食品を媒介とする感染症(食中毒)などにかかるリスクが高まります。
食中毒にはさまざまな原因がありますが、その約90%が細菌やウイルスによるものです。人の身体に感染する主な細菌にカンピロバクターや腸管出血性大腸菌、ウイルスにはノロウイルスなどがあります。
感染症予防のための食材選び
避けるべき食材や調理に関する衛生管理の程度は、患者さんが受けている治療の内容によっても異なるため、事前に主治医に確認をとります。調理法についてわからないことがあれば看護師や管理栄養士に相談するとよいでしょう。
なかでも、抗がん剤による骨髄抑制で白血球が減少している患者さんは感染リスクが高い状態にあります。感染を防ぐため、食材は新鮮で十分な加熱処理されているものを食べるようにしましょう。
●生ものや自家製発酵食品は控える
加熱処理していない食材には、細菌やウイルスがついている可能性があります。免疫機能が低下している時期は、生野菜や生肉、刺身などの生ものを食べるのは避けましょう。
果物や野菜は土が残らないように、流水で十分に洗います。食べる前に皮を厚くむくことで生でも食べられますが、心配な方は加熱するのが無難でしょう。
そのほか、雑菌が繁殖しやすいドライフルーツや皮の薄い果物、干しいも、自家製のヨーグルトや漬物などの発酵食品も控えます。
●買い物はこまめに
家族などの協力を得て、食品の買い物はこまめに行い、できるだけ食材は新鮮なものを食べるように心がけましょう。調理前に必ず消費期限、賞味期限を確認し、期限が過ぎたものは避けるようにします。一度開封した食品は消費期限、賞味期限にかかわらず使い切ります。特に骨髄抑制がある時期は、調味料も一回使い切りの個包装のものを準備するとよいでしょう。
調理上の注意点
患者さん自身が調理をする際には包丁の使用をできるだけ避けましょう。骨髄抑制がある時期には傷をつくると感染リスクが高くなります。
家族など自分以外の人が調理をする際には、調理をする人の体調管理も重要です。下痢や嘔吐、腹痛などの症状があると、調理する人から食材に細菌やウイルスがうつってしまう可能性があります。体調がすぐれない人は調理を行わないようにしましょう。
●調理前の準備
調理を行う人は爪を切りましょう。調理開始前には石けんでしっかりと手洗いを行います。小さくても傷がある場合には清潔な使い捨て手袋を使うなど、調理をする人から食材を介しての感染を防ぐことが大切です。
食材は、洗えるものはていねいに流水で洗います。まな板や包丁、ふきんなどもしっかり洗った後、よく乾燥させたものを使いましょう。
●調理中の注意点
使用する調理器具はできるだけ食材によって使い分ける、食材を扱うごとに洗って消毒するようなど、病原菌が調理器具を介して食材にうつらないようにしましょう。特に生ものを扱ったまな板や包丁は注意が必要です。
調理中も生野菜や果物を扱う前、生肉、生魚に触ったあとは手を洗いましょう。調理が終わった食品にも素手で触らないようにします。
調理では、煮る、焼く、蒸すなどの方法は選びませんが、いずれもしっかり加熱すると最も安全です。
骨髄抑制があるときには、食べるときに食べられる量を調理することも大切です。調理済みの食品でも時間が経過するにつれて生菌数が増えるリスクがあるため、調理後はできるだけ早く食べるようにしましょう。
●冷凍食品は電子レンジで解凍を
市販の冷凍食品は、規制基準によって管理されており、調理の負担も少なく、作り置きをせずに食べられる点でも上手に活用したいものです。しかし、室温で自然解凍すると生菌が増える可能性があります。解凍には電子レンジを使い、すばやく調理したものをできるだけ早く食べるようにしましょう。また、一度解凍したものを再び冷凍するのは避けましょう。缶詰やレトルト食品も同様に、開封後はすぐに使い切り、調理済のものは時間をおかずに食べるようにします。
●食事前にも手洗いを
食事をする前に、患者さん自身だけでなく、一緒に食卓を囲む家族も洗い残しのないように手洗いをしましょう。食品や食器を衛生的に扱うことが大切です。
●食後の片付け
食事が終わった後、調理器具や食器類は台所用洗剤でていねいに洗い、しっかりと乾燥させてから食器棚などに戻しましょう。台所もその都度清掃し、清潔を保つことが大切です。
低栄養を防ぐ食事
がん治療中は、口内炎ができて食べることがつらかったり、吐き気や嘔吐などの副作用、手術による影響で食べられるものが限定されたり、食事量が十分に確保できないことがあります。
がん治療中は、栄養バランスを考えて食事をとることがとても重要です。食事量が減っても栄養価の高いものをバランスよく食べることで体力を維持しましょう。体力が低下すると感染症にかかるリスクが高くなります。量が食べられないときには、市販の高エネルギーで栄養バランスがとれたゼリーやドリンクなどを利用する方法もあります。
骨髄抑制があるときには生肉や生魚、生野菜や果物などは避ける必要がありますが、食べてもよい時期なのか、食べてもよい食品なのかどうかがわからないときは、主治医に相談しましょう。
下痢や便秘を防ぐ食事
消化器の粘膜では、IgA抗体による防御が感染を防ぐ重要な役割を果たしており、常在菌のバランスを維持しています。
がん治療によって腸がダメージを受けると、防御力も低下して感染症にかかりやすくなります。がん患者さんは治療の影響などによって腸内環境も乱れやすくなっているため、治療前から腸内環境を整えることが大切です。
がん治療の影響で便秘があるときには、水分をしっかり補給し、食物繊維が豊富な豆類をやわらかくなるまでしっかり煮て消化をよくしたものなどをとるとよいでしょう。下痢をした後も湯冷ましやスポーツドリンク、野菜ジュースなどで水分の補給をします。
また、食欲が低下しているときでも食べられるものを1日3食規則正しくとることを心がけましょう。特に朝食は朝の排便リズムを整えるうえでも重要です。
国家公務員共済組合連合会虎の門病院
臨床感染症科部長
荒岡 秀樹 先生
和歌山県立医科大学卒業
東京厚生年金病院内科、杏林大学医学部第一内科(呼吸器内科)を経て、2007年に虎の門病院に赴任。日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本感染症学会専門医・指導医・評議員、日本臨床検査医学会臨床検査専門医、日本化学療法学会抗菌化学療法指導医・評議員、日本臨床微生物学会認定医・評議員・理事、インフェクションコントロールドクター(ICD)の認定資格を取得
この記事は2022年7月現在の情報となります。