第3回
【実践編】がん治療に伴う悪心・嘔吐に対する服薬・生活指導
PDF
抗がん剤の副作用の現れ方には個人差があり、患者さんの苦痛に対しては個別性の高い指導が重要です。副作用のなかでも悪心・嘔吐は、患者さんの不安も大きく、がん治療の中断につながる要因にもなり得ます。がん薬物療法の服薬指導を担う薬剤師に必要な悪心・嘔吐対策の知識、患者さんからの情報収集や生活指導のポイントを紹介します。
処方箋から抗がん剤の催吐性リスクを確認しましょう
悪心・嘔吐の発現頻度(催吐性リスク)は、処方箋に記載された抗がん剤と制吐薬の組み合わせから予測できます。催吐性リスクは、高度、中等度、軽度、最小度催吐性リスクの4つに分類されています※1)。
催吐性リスクは、制吐薬の予防投与を受けなかった場合、抗がん剤治療を受けた後24時間以内に起こる悪心・嘔吐の発現頻度をもとに分類されています。この催吐性リスクは、がん薬物療法に携わる薬剤師が押さえておくべき重要な知識です。調剤室のわかりやすい場所に、催吐性リスクの一覧を貼り出すなど、いつでも確認できるようにしましょう。
●催吐性リスクに応じた制吐療法
制吐療法は催吐性リスクに基づいて行われるため、使用する抗がん剤やレジメンによって処方される制吐薬は変わります(表1)。処方箋を確認するとともに、いま受けているがん薬物療法について患者さんに確認しましょう※1)。
表1 催吐性リスク別の制吐療法例
| 抗がん剤の催吐性リスク | 制吐療法(例) |
|---|---|
|
高度催吐性リスク
(催吐頻度>90%) |
・NK1受容体拮抗薬/5-HT3受容体拮抗薬/デキサメタゾンの3剤併用
・上記3剤+オランザピンの4剤併用 など |
|
中等度催吐性リスク
(催吐頻度30~90%) |
・5-HT3受容体拮抗薬/デキサメタゾンの2剤併用
(カルボプラチンなどを含むレジメン) ・NK1受容体拮抗薬/5-HT3受容体拮抗薬/デキサメタゾンの3剤併用 など |
|
軽度催吐性リスク
(催吐頻度10~30%) |
・5-HT3受容体拮抗薬
・デキサメタゾン などの単剤投与 |
|
最小度催吐性リスク
(催吐頻度<10%) |
ルーチンとしての予防的な制吐療法は行わない |
患者さんからの情報収集と医療機関との連携のポイントは?
抗がん剤による悪心・嘔吐は、出現時期によって急性、遅発性、予期性の3つにわけられるほか、突発性の悪心・嘔吐が出ることもあります(表2)※1)。催吐性リスクだけでなく、出現時期によって支持療法が変わることもあります。
表2 出現時期による悪心・嘔吐の分類
| 急性 | 抗がん剤の投与から24時間以内に出現する悪心・嘔吐 |
| 遅発性 | 抗がん剤の投与から24時間以後に出現する悪心・嘔吐。急性の悪心・嘔吐よりは症状は弱いといわれているが、数日間持続する(2~5日程度) |
| 予期性 | 抗がん剤のことを考えると出現する悪心・嘔吐 |
予期性悪心・嘔吐は、まだ抗がん剤治療が始まっていない段階で出現するものです。治療のことを考える、アルコール消毒をされる、食事のにおいや食事の時間、医療スタッフの顔を見るといったことでも惹起されることがあります※2)。精神的な要因が強いため、症状には個人差があります。予期性悪心は治療開始前からの抗不安薬の服用によって軽減できます。患者さんの訴えを丁寧に聞きとったうえで医療機関に情報を共有しましょう。
突発性の悪心・嘔吐は、制吐療法を行っていても出現します。突発性の悪心・嘔吐がある患者さんには制吐薬を変更することがあるため、患者さんの話を聞いたうえで処方箋を十分に確認し、服薬指導を行うことが重要です。
また、悪心・嘔吐が必ずしも抗がん剤によるものとは限りません。がんの脳・髄膜への転移や電解質失調、腎不全・肝不全などのほか、抗がん剤以外の薬剤が原因となることがあります。症状の有無などを聞きとり、トレーシングレポートなどで医療機関に情報提供を行いましょう。
●悪心・嘔吐が起こりやすい患者関連因子
抗がん剤による悪心・嘔吐は、同じレジメンであっても患者さんによって症状の現れ方に大きな差があります。悪心・嘔吐の副作用が強く出る患者関連因子として、60歳未満であることや女性、妊娠時の悪阻が重かった、乗り物酔いしやすい、飲酒習慣がない、不眠といったことがあげられています※1、3)。
使っている抗がん剤の催吐性リスクよりも制吐療法が強化されている場合には、医師が患者関連因子をふまえて制吐薬を処方している可能性が考えられます。治療前の段階で患者さんに確認し、制吐療法について詳しく説明を行いましょう。また、がん薬物療法が開始された後も患者関連因子によって制吐療法の強化が必要になることもあります。悪心・嘔吐の副作用が強い場合に患者さんが連絡できる窓口についても確認をしましょう。医療機関と連携しながら、悪心・嘔吐に対応していくことが重要です。
悪心・嘔吐の副作用に対する服薬指導と対処法
抗がん剤による悪心・嘔吐への対処は、制吐薬を正しく服用してもらうことに加え、食事を中心とした生活面での指導も重要です。冊子などのツールを活用して、さまざまな対処法のなかから患者さんに合うものを見つけてもらい、つらい時期を乗り切れるようにサポートしましょう。
患者さんは、「抗がん剤=強い吐き気が出る」と考えていることも多く、治療前から不安を感じていることが少なくありません。薬剤に関する正しい情報を伝えることが薬剤師の役割であり、患者さんが受けるがん薬物療法ではどのくらいの割合で悪心・嘔吐の副作用が出るのかは事前に必ず伝えています。同時に、制吐療法によって強い悪心・嘔吐は予防できること、それでも悪心・嘔吐が続く場合には、制吐療法を強化できることを丁寧に説明しましょう。患者さんの気持ちに寄り添い、不安を受け止めながら患者さんの声に耳を傾けることが大切です。患者さんへの服薬指導は1回で終わりではなく、患者さんががん治療を終了するまで必要なタイミングで繰り返し行います。
【服薬指導ケース1】
「吐き気止めをきちんと飲むことで予防ができます。指示通りにお薬を飲みましょう。もし、吐き気の症状が出たときには、吐き気止めを追加することもできます」
「この抗がん剤は吐き気が出ると言われたのが不安で…。本当に吐き気止めを飲めば大丈夫なのでしょうか?」
「はい。この吐き気止めは、強い吐き気が出ないように、患者さんが服用する抗がん剤に合わせて処方されています。ただし、お薬の飲み忘れがあると吐き気が強く出てしまうことがありますので、指示通りにお飲みください」
「わかりました。それでも、吐き気が出たら、どうすればいいのでしょうか」
「そうですよね、不安ですよね…。もし、吐き気止めを指示通りに飲んでいても吐き気が1日続くようでしたらがまんせずにご連絡ください」
「ありがとうございます。ちゃんとお薬を飲めば強い吐き気は出ないと聞いて安心しました」
患者さんによって悪心・嘔吐の出方や感じ方は異なり、連絡をしてもよいのかどうかの判断に迷うこともあります。このケースのように、連絡をすべき具体的な悪心・嘔吐の程度を説明しておくことも患者さんの安心につながります。
●食事の工夫
食事がとれないことは患者さんの不安を増幅させる原因となります。どのようなことで困っているのか、何につらいと感じているのかを聞き取り、具体的な対処法や工夫できる点を伝えましょう。治療開始当日の食事についても「とくに制限はありませんので、普段と変わらない食事で大丈夫ですが、脂っこいものは控え、さっぱりしたものを食べるとよいでしょう」などと事前にアドバイスをしておくと患者さんも安心です。
また、患者さんはがん治療開始後、実際に悪心・嘔吐の症状が出るなかで食事のつらさや悩みが具体化されます。患者さんがどのようなことで困っているのかを把握したうえで、対処法を伝えましょう。
【服薬指導ケース2】
「がん治療が始まり、以前のように好きなものが食べられないのがつらいです」
「それはおつらいですね。どのようなものが食べられないのですか?普段はどのような食事をされていますか?」
「揚げ物が好きで、毎日のように食べていました。でも今はにおいがするだけでもつらくて…。それ以外にも1日3食食べられないときもあるので…」
「そうなのですね。揚げ物は胃に負担がかかってしまうので、吐き気があるときは避けたほうがよいかもしれません。あと、がん治療中は1日3食にこだわらなくても大丈夫ですよ」
「そうですか…。でも食事をちゃんととらないと体力が持たない気がして…」
「食事を数回にわけて、食べられる分だけを食べるのはどうでしょうか。それで1日3食と同じ食事量を確保している患者さんもいらっしゃいますよ」
「なるほど…、そうすればいいのですね」
「はい。いまはつらい吐き気などをできるだけ予防しながら、食べられるものを食べられるときに食べて体力を維持することが大切です」
「わかりました。ありがとうございます」
がん治療中に食事がとれなくなることは、全身状態の悪化につながるため、栄養をとることは大切です。しかし、無理に食べることは患者さんにとっても負担になります。食べるタイミングや1回の食事量にこだわらなくてもよいことを伝えましょう。食事面では次のような点に注意することで悪心・嘔吐を予防できることを説明します(表3)。
表3 悪心・嘔吐を予防する食事の工夫例
・食事前にレモン水や番茶などを飲む、うがいをする
・食事は消化のよいものをゆっくり食べる
・1回に食べられる量を1日何回かにわけて食べる(分食)
・油っぽいものや刺激が強い献立を避ける
・においの強いものを避ける
・室温程度のものや冷たくさっぱりしたものを献立にする
・栄養補助食品などを活用する など
●がん治療中の副作用対応レシピはこちら
●がん患者さんの体重コントロールについてはこちら
●他疾患で食事制限がある患者さんへの対応
糖尿病や高血圧などの生活習慣病をはじめ、食事療法を受けている患者さんが抗がん剤による悪心・嘔吐で食べられるものに制限がある場合、医師からどのような説明を受けているのかを確認しましょう。
●生活面での工夫
がん治療中は食後に仰向けになると悪心・嘔吐が起こりやすくなります。できるだけ上半身を起こした状態で休む、または横向きになって膝を曲げるなど、楽な姿勢で過ごすように伝えます。衣服も締め付けないリラックスできる服装で過ごすように説明しましょう。
また、においが強いものを周囲に置かないようにする工夫も悪心・嘔吐の軽減につながります。ごはんを炊くにおいや花の香りなどにも敏感になっているため、周囲の環境に配慮するように指導します。
外来でがん治療を受ける患者さんが増えるなかで、副作用への対応は保険薬局の薬剤師の重要な役割となります。とくに抗がん剤の副作用による悪心・嘔吐は、がん治療中断のリスクとなるものです。現在は制吐療法が確立しており、予防・対処ができるようになっていることを伝えるとともに、患者さんの不安に寄り添う姿勢で正しく服薬ができるように支援しましょう。
<文献>
| ※1) |
日本癌治療学会:制吐薬適正使用ガイドライン 2023年10月改訂 第3版.
http://www.jsco-cpg.jp/antiemetic-therapy/ (2025年11月28日閲覧) |
| ※2) |
Morrow GR, Roscoe JA, Kirshner JJ, et al.: Anticipatory nausea and vomiting in the era of 5-HT3 antiemetics. Support Care Cancer 6 (3): 244-7, 1998.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9629877/ (2025年11月28日閲覧) |
| ※3) |
G Dranitsaris, A Molassiotis, et al.: The development of a prediction tool to identify cancer patients at high risk for chemotherapy-induced nausea and vomiting.Ann Oncol,28 (6): 1260-1267, 2017.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28398530/ (2025年11月28日閲覧) |
| ・ | 宮田佳典・中信がん薬薬連携推進ワーキンググループ:保険薬局薬剤師のための もうビビらない!がん関連処方対応術.南山堂,2019. |
静岡県立静岡がんセンター 薬剤部 副薬剤長
石川 寛 先生
2001年東京薬科大学薬学部薬学科卒業後、メディオ薬局に勤務。2004年、静岡県立総合病院に入職し、2008年から静岡県立静岡がんセンターでがん薬物療法に携わる。日本医療薬学会がん専門薬剤師。静岡県病院薬剤師会学術部がん専門薬剤師部門委員長ほか。
この記事は2025年10月現在の情報となります。

