第4回
【実践編】がん薬物療法に伴う皮膚障害の予防と治療
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皮膚障害は、がん薬物療法の副作用のなかでも頻度の高いもののひとつです。生命に影響を及ぼすことはごく稀なものの、痛みなどの症状に加えて外見の変化を伴うことから、QOL(生活の質)や治療意欲を低下させる要因となります。また、がん薬物療法に伴う皮膚障害は、予防的治療によって症状の出方に差が出る副作用でもあります。皮膚障害の予防的治療は、日常的にスキンケアを行っていない人ほど実践が難しく、症状発現後では十分な治療効果が得られにくくなります。そのため、がん薬物療法開始前から薬剤師による丁寧な指導を行うことが重要となります。
聞き取ったスキンケア習慣をもとに服薬指導の方針を考えましょう
がん薬物療法による皮膚障害を完全に防ぐことはできません。そのなかで重要となるのが、予防的治療と早期発見、早期の副作用に対する治療です。薬剤師には、症状をコントロールしながらがん薬物療法を継続できるように支援する役割が求められます。
がん薬物療法のなかでも皮膚障害の副作用が出やすいのは殺細胞性抗がん剤と分子標的薬です。しかし、同じ皮膚障害でも殺細胞性抗がん剤と分子標的治療薬では症状の出方が異なることもあります。たとえば、ざ瘡様皮疹では殺細胞性抗がん剤に比べて分子標的薬によるもののほうが、痛みが強く出やすいことがわかっています。患者さんが受けているがん薬物療法を十分に理解したうえで指導にあたりましょう(表1)。
表1 がん薬物療法に伴う主な皮膚障害
| 皮膚障害の種類 | 症状の特徴 |
|---|---|
| 発疹・紅斑 | 皮膚の吹き出物、盛りあがりのない紅斑、びらんなど |
| ざ瘡様皮疹 | 頭部、顔面、前胸部、腹部、背部、腕、脚などに、にきびに似た皮疹が出る。毛が生えている部分で強い痛みを伴うことがある |
| 皮膚の乾燥 | 皮膚が乾燥してかゆみを伴ったり、ひび、あかぎれなどが起こる。亀裂による痛みが出る |
| 爪の変化(爪囲炎、変色、爪が割れるなど) | 爪の変色や変形、爪がもろくなる。爪のまわりの炎症によって痛みが出たり、爪が陥入したりする |
| 色素沈着 | 顔や手足などの色が黒ずんだり、黒い斑点状のものが出てきたりする |
| 手足症候群 | 手で物を持ったり、立ち上がったりしたときに手や足裏に力がかかり、皮膚が硬くなったり腫れたりする。圧迫されたときに毛細血管が壊れて抗がん剤が染み出てくることがある |
●分子標的薬と皮膚障害の関連性
一部の分子標的薬による皮膚障害は、治療効果との関連性があることがわかっています。つまり皮膚障害の症状は、治療の効果が出ていることの指標になるものでもあります。しかし、皮膚障害による苦痛を我慢すればがん治療の効果が上がるわけではありません。予防的治療による症状の軽減ががん治療の効果を減弱させるものではないことも丁寧に伝えましょう。
●服薬指導の前に患者さんのスキンケア習慣を確認しましょう
皮膚障害の予防的治療について服薬指導を行う前に、患者さんの日ごろのスキンケア習慣を確認しておきましょう。このときに行うコミュニケーションがその後の指導方法、内容の判断に役立ちます。
スキンケア習慣は個人差が大きく、なかでも男女での差が大きいといえます。たとえば、日ごろからスキンケア商品を自ら選択し、実践している患者さんに「刺激が少なく保湿効果の高い化粧水を使いましょう」と伝えれば、ある程度どのような商品を選べばよいのか、どこで購入すればよいのかが想定できます。しかし、これまでスキンケア習慣がなかった患者さんに同じことを伝えても、何を買えばよいのか、どこで買えばよいのかがわからないことがあります。
基本のスキンケアの理解を深め、自宅でのケアを実践してもらうためには患者さんのスキンケア習慣を確認したうえで、どのような指導を行えばよいのかを検討しましょう。
【スキンケア習慣の聞き取り例】
この抗がん剤は皮膚が乾燥したり、発疹などが出る可能性がありますが、普段からお肌が乾燥しやすいといったことはありますか?
そうだね。とくに冬は寝ている間に乾燥してかゆみが出て目が覚めることもあるね
そうなのですね。ちなみにお風呂は何℃くらいで入られていますか?
うーん。何℃かはわからないけど、昔から熱めが好きだねー
実は熱いお風呂はお肌が乾燥する原因になるのです
そうなの? じゃあ、がん治療中にお風呂に入ったらもっと乾燥しやすくなってしまうってことだよね?あまりお風呂に入らないほうがいいの?
お風呂は体調が悪いときを除いて毎日入っていただきたいです。皮膚の色や乾燥状態、傷がないかを確認して気になることがあれば医師にご相談ください。お肌を清潔に保つことは、感染症の予防にも役立ちます。ただ、お湯の温度は40℃以下にしていただくのがよいですね。この冊子に基本のスキンケアが載っていますので、お持ち帰りいただき、ご自宅でお読みください
コミュニケーションの導入に季節の話題を出して入浴状況やスキンケア習慣などを確認することもできます。基本のスキンケアの指導は冊子や動画を使うとわかりやすく、振り返りもしやすくなります。とくに皮膚の症状は患者さんだけでは判断ができないため、症状については写真を使った冊子などを使い、理解を促すとよいでしょう。
●毎日の生活のなかでの注意点も指導内容に盛り込みましょう
薬剤による予防的治療に加え、日常生活でのスキンケアの注意点も伝えることが皮膚障害の予防、症状の軽減につながります。患者さんのスキンケア習慣を確認しながら指導を行いましょう(図1、表2)。
図1 皮膚障害予防の3つのポイント
表2 皮膚障害予防の指導内容
| ポイント | 指導内容 |
|---|---|
| 保湿 |
・香料や添加物が少なく、アルコール成分が入っていないローションやクリームで保湿する
・手洗いや入浴後は水分を押さえ拭きにし、保湿ケアをする ・保湿剤使用後は手袋や靴下で皮膚を保護する ・熱いお湯(40℃以上)の使用を避ける |
| 清潔保持 |
・皮膚が汚れたら洗う
・石けんは低刺激(弱酸性)のものを選ぶ ・石けんはよく泡立てて使う ・流水で丁寧に洗い流す |
| 保護 |
・紫外線ケア(日焼け止めの塗布、日傘、帽子など)を行う
・ケガ、虫刺されを避ける ・身体を洗うときにはゴシゴシ洗いなどによる刺激を避ける ・身体を継続的に締め付ける衣服を避ける |
| 観察 |
・入浴時などに皮膚の状態を確認する
(鏡を使ったり家族の協力を得て背中もしっかり確認する) ・かゆみや痛み、チクチク感、皮膚の乾燥などの自覚症状は放置せず医療従事者に伝える |
※静岡県立静岡がんセンター薬剤部
石川寛先生提供資料を参考に作成
●外見の変化に関するケアや基本のスキンケアについてはこちら
●がん患者さんからの情報収集のためのコミュニケーションのポイントはこちら
「おくすり手帳」で患者さんの受けているがん治療を確認しましょう
患者さんが経口薬の抗がん剤を処方されている場合、処方箋を見ればがん治療中であることがわかります。しかし、なかには通院で注射薬によるがん薬物療法を受け、予防的治療に使う外用薬のみを保険薬局で受け取っている患者さんもいます。患者さんが受けている治療について聞き取りを行うときは「おくすり手帳」を確認しましょう。点滴や注射薬などが変更になった場合も医療機関の薬剤師が「おくすり手帳」を更新しています。
●皮膚障害が出やすい抗がん剤と支持療法
がん薬物療法に伴う皮膚障害は、予防的治療に使われる薬と症状が出た場合の治療薬が異なります。症状出現後の治療ではステロイド外用薬が使用されることが多く、部位によっても薬を使い分けます(表3)。
表3 抗がん剤治療に伴う皮膚障害に対する処方の一例
| 治療内容 | 処方例 | |
|---|---|---|
| 軽度 | 外用(頭皮) | ベタメタゾン吉草酸エステル・ゲンダマイシン硫酸塩ローション(1日2回塗布) |
| 外用(顔) | ヒドロコルチゾン酪酸エステルクリーム(1日2回塗布) | |
| 外用(頭皮・顔以外) | ジフルプレドナート軟膏(1日1~2回塗布) | |
| 内服 | ミノサイクリン塩酸塩カプセル100mg/日(1日1回) | |
| 中等度 | 軽度の治療+ | |
| 内服 | ミノサイクリン塩酸塩カプセル200mg/日(1日2回) | |
| 内服 | ビラスチン錠20mg/日(1日1回) | |
| 重度 | 中等度の治療+ | |
| 外用 | クリンダマイシンリン酸エステルゲル(1日1~2回塗布) | |
※静岡県立静岡がんセンター薬剤部
石川寛先生提供資料を参考に作成
がん薬物療法の服薬指導を担う薬剤師は、皮膚障害が出やすい抗がん剤とその予防的治療、症状発現後の治療に使われる薬の知識が求められます。
アドヒアランスを高める服薬指導のポイント
がん治療に伴う皮膚障害に対しては、予防的または治療として部位ごとに異なる外用薬を使います。どの部位に何を使えばよいのかわからずに混乱してしまう患者さんもいるため、患者さんの理解度を確認しながら服薬指導を行いましょう。
●患者さんが理解しやすい方法で説明する
服薬指導時のコミュニケーションにおいて、患者さんが「あのオレンジの蓋の塗り薬、ベタつくから好きじゃない」「水色の蓋のクリームがまだたくさん余っている」などと、外用薬の外観の特徴(色など)で伝えてきた経験をしたことがある薬剤師は多いと思います。患者さんは外用薬以外にも多くの薬が処方されているため、用量・用法を守って正しく使ってもらうためには、「顔にはこの水色のクリームを塗ってください」など、できるだけわかりやすく説明することを心がけましょう。
●患者さんによって表現を選ぶ
皮膚障害の予防的治療は症状が出る前から行うものですが、なかには楽観的にとらえて自宅でのケアにきちんと取り組まない患者さんもいます。また、仕事をしているためケアができない患者さんもいます。こうしたなかで患者さんのアドヒアランスを高めていくためには、予防的治療を行うメリットとデメリット、外用薬の正しい塗り方を伝えることが重要となります。また、軟膏はベタつくなどの理由から少量しか塗布していないこともあるため、使用感や気になる点についても聞き取りを行いましょう。指導は患者さんの理解度を確認しながら繰り返し行うことが重要です。
また、予防的治療の重要性を伝えるために、重症度の高い皮膚障害の症例写真を見せることも一案です。患者さんがケアの重要性を実感できていない場合には、「ケアをしたほうがよい」と感じられる表現を使うこともあります。ただし、患者さんに恐怖心を植えつけることが目的ではありません。皮膚障害は予防できる点を強調して説明しましょう。
【予防的治療についての説明例】
この抗がん剤は皮膚障害という副作用が出やすいことがわかっていますので、予防のために外用薬を毎日塗っていただきたいのです
え? 症状が出る前からやらないといけないの? そこまでしなくても大丈夫じゃないの?
皮膚障害は外用薬を正しく使うことで予防できるものです。しかし、ケアを怠ってしまうとこういう症状が出ることがあります(症例写真を見せる)
え!? 皮膚障害って言ってもちょっと肌荒れする程度だと思ってたよ…
はい。もちろん患者さんによって個人差はありますが、重症の患者さんの場合はこのような症状が出てしまうのです。でも、今から説明する外用薬の使い方を覚えてご自宅でケアを続ければ予防ができます。また、痛みなどを感じたときにはお薬を追加することで早期に対応でき、重症化を防ぐこともできます
そうか…。わかった。やってみるよ
症例写真やタブレット端末を使って動画を見せながら指導を行うことは、文章では伝わりにくい症状を視覚的に伝えることができるだけでなく、言葉のみでの説明よりも患者さんの注意を引くことができるため、理解が深まります。患者さんによって説明の仕方を工夫することも薬剤師の重要なスキルです。
●医療機関への報告の基準を明確に
皮膚障害の副作用があるがん薬物療法を受ける患者さんに対しては、医療機関への連絡の基準を明確にしておくことも患者さんの安心感につながります。皮膚障害による痛みがある場合にはがん薬物療法の継続自体が困難になるグレード3と判断されるため、「痛みがあれば連絡してください」と伝えています。症例写真を使って説明することも重要ですが、それだけでは患者さん自身で判断することは難しいといえるでしょう。痛みは主観的な評価であり、患者さん自身で判断してもらうことができます。
抗がん剤による皮膚障害は高頻度で発生するものの、予防的治療による回避、早期発見、早期治療ががん薬物療法の継続につながります。そのためには、患者さんのスキンケア習慣や理解度に応じた薬剤師の服薬指導の工夫が求められます。
<文献>
| ・ | 宮田佳典・中信がん薬薬連携推進ワーキンググループ:保険薬局薬剤師のための もうビビらない!がん関連処方対応術.南山堂,2019. |
| ・ | 石川寛:日本緩和医療薬学会第3回在宅緩和ケア教育セミナー 抗がん剤による皮膚障害対策について.資料 |
| ・ |
静岡県立静岡がんセンター:学びの広場シリーズ からだ編3 抗がん剤治療と皮膚障害
https://www.scchr.jp/book/manabi2/manabi-body8.html (2026年1月16日閲覧) |
静岡県立静岡がんセンター 薬剤部 副薬剤長
石川 寛 先生
2001年東京薬科大学薬学部薬学科卒業後、メディオ薬局に勤務。2004年、静岡県立総合病院に入職し、2008年から静岡県立静岡がんセンターでがん薬物療法に携わる。日本医療薬学会がん専門薬剤師。静岡県病院薬剤師会学術部がん専門薬剤師部門委員長ほか。
この記事は2025年12月現在の情報となります。

