がん患者さんに起こりやすい睡眠障害(不眠)

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■がん患者さんのQOL低下に関連する精神症状

がん患者さんは、がんと診断されたときから精神的な負担を抱えています。また、治療中は抑うつや疼痛、せん妄、不安などの精神症状が出る患者さんも多く、生活の質(QOL:Quality of life)の低下の原因となります。

【がん治療中のQOLに関係する主な要因※1

なかでも睡眠障害(不眠)は、疼痛や抑うつに劣らず、QOL低下に影響するといわれており、がん治療継続の阻害要因やせん妄、気分障害の発症リスクになるとも考えられています。

高齢のがん患者さんに多くみられる精神症状についてはこちら

■がん患者さんのQOL低下に関連する精神症状

がん患者さんの20〜50%が不眠を経験するといわれているほど※2、不眠はがん患者さんに高頻度に出現する症状のひとつです。がん治療を継続するためには、治療中のQOLの維持・向上が重要であり、がん患者さんががんと診断されたときからQOLの自己管理や医療チームの適切な介入で、がん治療成績の向上につながる可能性があるとされています。

現在では、副作用に対する支持療法も進歩し、がん治療に伴う症状をコントロールしながら、その人らしく療養生活を送ることも可能となってきました。薬剤師には、薬の専門家としての視点から患者さんのQOL低下の要因などを把握し、その情報をチームで共有し、予防的に対応することが求められます。

●がん治療における睡眠の重要性

睡眠の調節には、大脳皮質の疲労に応じて睡眠を発現させる(睡眠恒常性維持機構)、夜間に睡眠を発現させる(体内時計機構)、必要時に覚醒させて睡眠の発現を抑える(覚醒保持機構)の3つのシステムが働いています。このバランスが乱れることで不眠が生じます。

【眠りのメカニズム】

不安や緊張、怒りなどの情動的な興奮は覚醒度を高め、睡眠への移行を妨げる要因となります。一時的な情動の興奮で入眠ができなくても、通常では深いノンレム睡眠の増加、睡眠時間の延長によって大脳皮質の休息・回復が促されます。しかし、入眠困難や睡眠維持困難などの状態が続くと、日中の眠気や倦怠感、集中力の低下などが生じて日常生活に支障が出ます。がん治療中は体力が低下することが多く、不眠が生じることでさらに体力の低下を招き、がん治療継続にも影響を与える可能性があります。

■がんやその治療が睡眠に与える影響

がんに伴う不安や治療の副作用である悪心・嘔吐など、がん患者さんが睡眠を阻害する要因は多岐にわたることから、薬剤師は患者さんへの聞き取りからその要因を見極めていくことが重要となります。

また、がん化学療法中の患者さんは、不眠の頻度が一般の人に比べて3倍多いといわれています※3。とくに58歳未満のがん患者さんでは不眠が生じやすいとの報告もあります※4

がん化学療法を開始する段階で不眠がある患者さんの場合、がん治療中に不眠が改善する人の割合は少ないとされています。とくに抗がん剤治療にステロイド薬を併用する場合、3~4日間は不眠が続くことがあるため、患者さんにもあらかじめ伝えましょう。また、治療開始時に不眠だけでなく、倦怠感、抑うつなどの精神症状が多いと、治療中に症状が残りやすいといわれています。不眠をはじめ、倦怠感や抑うつなどの症状に対しては、がん診断時から積極的に介入することがQOLを維持し、がん治療を継続させるポイントとなります。

●がんの痛みと睡眠

がん患者さんの不眠の原因として痛みは大きな原因となります。がん患者さんの疼痛管理の評価に使用されるWHO(世界保健機関)方式がん疼痛治療法では、その第一目標を「痛みに妨げられない夜間の睡眠」としています。夜間の睡眠が疼痛管理の評価のひとつとなっていることからもわかるように、がんによる症状コントロールの評価においても、睡眠状況の把握は重要となります。

<引用・参考文献>
※1 金野倫子 第54回日本心身医学会総会ならびに学術講演会シンポジウム がん治療中における睡眠障害.心身医学,日本心身医学会,54(3):251-256,2014
※2 がん情報サービス 不眠について
https://ganjoho.jp/public/support/condition/insomnia/ld01.html
※3 上村恵一:睡眠障害のメカニズムと治療.がん看護,南江堂.20(2)増刊:183-187,2015.
※4 Liu L et al; Pre-treatment symptom cluster in breast cancer patients is associated with worse sleep, fatigue and depression during chemotherapy. Phycho-Oncology, 18(2): 187-194, 1994

<参考文献>
・厚生労働省e-ヘルスネット:睡眠と健康 不眠症
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-02-001.html
・内山真:特集「日常診療で役立つ睡眠学の知識」睡眠の役割とメカニズム.日大医学雑誌,日本大学医学会.79(6):327-331,2020.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/numa/79/6/79_327/_pdf/-char/ja
・新野秀人:特集 痛み・痒みと睡眠障害の関連を探る がん患者にみられる睡眠障害.ねむりと医療,先端医学社.3(1):19-21,2010.
・横山遼・小曾根基裕:特集/睡眠障害へのアプローチ最前線 各種睡眠障害の診断と治療 不眠症の診断と治療.臨牀と研究,大道学館.99(9):1077-1082,2022.

保坂サイコオンコロジー・クリニック院長
聖路加国際病院 診療教育アドバイザー
聖路加国際大学臨床教授
京都府立医大客員教授
保坂 隆 先生

1977年慶應義塾大学医学部を卒業後、同大学精神神経科入局。1990年より2年間、米カリフォルニア大学ロスアンゼルス校(UCLA)精神科に留学。東海大学医学部教授、聖路加国際病院精神腫瘍科部長、聖路加国際病院リエゾンセンター長などを経て、現職。

この記事は2023年5月現在の情報となります。

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