睡眠障害(不眠)の原因と症状

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■がん患者さんの睡眠障害(不眠)の原因

不眠の原因には、身体的原因、生理的原因、心理的原因、精神医学的原因、薬理学的原因があるといわれています。

【睡眠障害(不眠)の原因】

身体的原因(physical) 病気の進行や治療に伴う副作用
生理的原因(physiological) 入退院などの環境の変化
心理的原因(psychological) ストレスや不安、家族への心配など
精神医学的原因(psychiatric) うつ病、適応障害、せん妄など
薬理学的原因(pharmacologic) がん治療や支持療法、合併症の治療に使う薬剤、刺激物の摂取などによる影響

●身体的原因(physical)

がん治療に伴って不眠を引き起こす身体的原因には次のようなものがあげられます。

なかでも、疼痛は不眠の大きな身体的原因となります。また、便秘は腹部の膨満感や蠕動運動による痛みなどを伴うことが多く、発熱に伴う不眠では、寝汗を訴えることもあります。

●生理的原因(physiological)

入院が必要となったり、通院のために休職したりするなど、がん治療に伴って生活環境が急激に変化するケースは少なくありません。同室の患者さんとの人間関係を築くことへのストレス、これまで家族と過ごすことが多かった人では、病室で一人きりで過ごすという環境の変化に順応できないこともあります。入院中に昼夜逆転の生活になったり、自宅の寝室とは異なる照明や音が気になって眠れなかったりすることもあります。

●心理的原因(psychological)

がんと診断されたことや、自分が受ける治療はどのくらい効果が期待できるのかなどの治療に関する不安が不眠の原因になることがあります。また、がん治療を受けることによって変化する家庭や職場での役割、経済的な負担、将来への不安などのさまざまな心理的原因があげられます。

●精神医学的原因(psychiatric)

がん患者さんの47%が精神医学的診断基準を満たす何らかの精神症状があるという報告があり、その主なものとして適応障害、うつ病、せん妄があげられます※1。高齢のがん患者さんの場合、せん妄が認知症と誤って判断されてしまったり、その逆もあり得ます。

これらの精神医学的原因が不眠の原因となっているケースも少なくありません。適応障害やうつ病などがあると、がん治療への意欲低下を招くことがあるため、早期に医療チームで情報を共有し、主治医と相談のうえ、精神腫瘍科の専門医につなげるなどの対応が求められます。

●薬理学的原因(pharmacologic)

【不眠の原因となる主な薬剤】

・ステロイド薬
・抗がん薬
・インターフェロン
・キサンチン製剤
・甲状腺ホルモン
・カフェインその他中枢神経作動薬 など

がん患者さんの不眠は、原因が1つではなく、複数が関与していると考えられます。また、不眠が続くことへの不安(生理)、ベッドに入るだけで嫌な気持ちになる(情動)、また眠れないのではないかと感じる(認知)、眠るためにいろいろな努力をする(行動)が生じるようになり、さらに眠れなくなってしまう悪循環に陥りがちです。

【不眠が引き起こす悪循環】※1

●薬剤師による聞き取りと説明のポイント

薬剤師は、がんの治療や症状コントロールに使用する薬のなかに、不眠の原因となる薬が含まれている場合には、事前に患者さんに十分な説明を行います。睡眠状況を患者さんから詳しく聞き取り、薬剤の影響による不眠で日常生活に支障をきたしていることが考えられる場合には、医療チームに情報を共有し、薬剤の減量や中止が可能かどうかを含めて多職種によるチームで検討します。

とくにステロイド薬はがん治療に伴う不眠の原因のひとつとなる薬で、患者さんのなかには3~4日不眠になることがあります。「不眠の原因となる」と伝えるだけでは、その程度を患者さんが理解できず、眠れないことでさらに患者さんが不安になってしまうこともあります。薬による睡眠への影響については具体的な説明を心がけましょう。

●不眠を訴えない患者さんも少なくない

がん患者さんのなかには、不眠に悩んでいてもがん治療中であることを理由に“我慢すべきもの”と考えてしまうことがあります。また、不眠を訴えることで「服用する薬が増えてしまうのではないか」「薬を飲み始めたら、薬なしには眠れなくなってしまうのではないか」といった不安から、医療従事者に不眠があることを伝えないこともあります。

患者さんや家族から生活状況や夜間の状況などを聞き取るだけでなく、不安やストレスに感じていることを患者さんの言葉や表情から見極めていくこと、薬に対する不安がある場合に丁寧に説明することも薬剤師の重要な役割です。

■ 睡眠障害(不眠)の症状

睡眠障害には、不眠症のほかに睡眠関連呼吸障害、中枢性過眠症候群、概日リズム睡眠・覚醒障害群、睡眠時随伴症群、睡眠関連運動障害群、その他の睡眠障害があります※2

がん患者さんに多い不眠障害は、入眠困難、睡眠維持困難、早期覚醒のうち1つ以上の症状があり、日常生活の機能障害(日中の眠気、疲労感、集中力の低下など)が少なくとも週3回以上あるものをいいます。症状が3か月未満のものを短期不眠障害、3か月以上のものを慢性不眠障害といいます※3。また、また、回復感のない、質のよくない睡眠(熟眠障害)を訴えることもあります。

入眠障害 就床から入眠までに時間がかかるもので、就寝後60分以上入眠できない状態
中途覚醒 眠りが浅く、途中で何度も覚醒する。一度覚醒すると再入眠までに時間がかかることもある
早期覚醒 起床目標時間よりも前に覚醒する

不眠症がある患者さんに対しては、意識障害がないことの確認(せん妄の鑑別)、不安や焦燥感からくる過覚醒、疼痛や便秘など不眠の原因になる身体症状の有無、薬理学的原因、ほかの睡眠障害の原因となる疾患の有無などを確認します。

【不眠の鑑別】※4

とくにがん患者さんが不眠を訴える場合、早急に不眠との鑑別が必要とされるものにせん妄があげられます。せん妄では、主に睡眠覚醒リズムの障害と注意障害に関連する認知機能の障害がみられます。鑑別を行ったうえで、不眠の症状と、それによって日常生活にどのような支障をきたしているのかを聞き取り、対応を検討していきます。

<引用・参考文献>
※1 上村恵一:上村恵一:「緩和・サポーティブケア最前線」Ⅱ 生活することを阻害する心の変化とケア 眠ることを阻害する症状 睡眠障害のメカニズムと治療.がん看護,南江堂.20(2):183-187,2015.
※2 米国睡眠医学会著・日本睡眠学会診断分類委員会訳:睡眠障害国際分類第3版 慢性不眠症.ライフ・サイエンス.3-15,2018.
※3 厚生労働省e-ヘルスネット:不眠症
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-02-001.html
※4 小川朝生:眠る・休む 患者さんの休息が障害されるときにはなにが起こっているのか~その原因と症状マネジメント.がん看護,南江堂.25(5)増刊,2020.

<参考文献>
・横枕令子:主症状からみるヘルスアセスメント 精神症状を呈する患者のヘルスアセスメント 睡眠障害を訴える患者のヘルスアセスメント.がん看護,南江堂.16(2)増刊:212-216,2011.
・国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所睡眠・覚醒障害研究部:睡眠障害国際分類(ICSD-3)
https://www.ncnp.go.jp/nimh/sleep/sleep-medicine/index.html
・平澤俊之・井上雄一:特集患者指導、医師のこの一言が患者を変える 疾患別指導 睡眠障害、不眠症.診断と治療,診断と治療社.110(8):1025-1028,2022.
・本多真:ICD-11「精神,行動,神経発達の疾患」分類と病名の解説シリーズ各論12 睡眠・覚醒障害(Sleep-wake Disorders).精神神経学雑誌,日本精神神経学会.124(3)192-197,2022.
https://journal.jspn.or.jp/jspn/openpdf/1240030192.pdf

保坂サイコオンコロジー・クリニック院長
聖路加国際病院 診療教育アドバイザー
聖路加国際大学臨床教授
京都府立医大客員教授
保坂 隆 先生

1977年慶應義塾大学医学部を卒業後、同大学精神神経科入局。1990年より2年間、米カリフォルニア大学ロスアンゼルス校(UCLA)精神科に留学。東海大学医学部教授、聖路加国際病院精神腫瘍科部長、聖路加国際病院リエゾンセンター長などを経て、現職。

この記事は2023年5月現在の情報となります。

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