薬剤師による睡眠状況チェックのポイント

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■問診による睡眠状況などの把握

不眠があっても実際に主治医に相談しているがん患者さんは約17%にとどまっているという報告があります※1

とくに外来でがん治療を継続している患者さんは、医療従事者が睡眠状況を直接観察することができません。不眠症状がせん妄の前駆症状であることからも、その有無や睡眠状況などについては、問診による聞き取りが重要となります。

睡眠に関する悩みは薬の影響も考えられることから、薬剤師は副作用についての聞き取りをきっかけに次のような点をチェックしましょう。トリアージ役として情報をチームで共有することが求められます。

●睡眠状況

不眠ががんやその治療に関連するものか、既往する別の病気やその治療に関連するものかなど、原因によって治療方針は異なります。そのため、不眠の発現時期やそのほかに気になる症状があるかどうかなどを確認します。

内容 質問例
症状の発現時期 いつごろから眠れなくなったのでしょうか?
不眠の原因 眠れなくなってしまったのはなぜだと思いますか?
不眠以外の精神症状の有無 気分が落ち込んだり、好きだったことが楽しめなくなったりしていませんか?
不眠の既往・治療歴 以前にも眠れなくなってしまったことはありますか?そのときは病院を受診されましたか?

●睡眠障害(不眠)のタイプ

不眠のタイプによっても対策、治療方針が異なることがあります。睡眠の悩みを複数抱えていることも多いため、患者さんがイメージしやすいように具体的に状況を伝えて症状の有無を確認しましょう。

内容 質問例
入眠障害 床に入ってから眠るまでにどのくらい時間がかかりますか?
睡眠維持困難 夜中に何度も目覚めてしまうことはありますか?
夜間頻尿に伴う不眠 トイレのために夜間何度も起きることはありますか?
再入眠障害 夜中に目が覚めた後すぐに寝つけますか?
早期覚醒 朝、まだ暗いうちに目が覚めてしまうことはありますか?
まだ寝ていたいのに目が覚めて眠れないことはありますか?

また、睡眠時間やその質が低下することで熟睡感がないと感じる患者さんは少なくありません。「最近、何時間寝ていますか? 朝起きたときに“よく寝た”という熟睡感はありますか?」など、睡眠の質について患者さん自身がどう感じているのかも確認しましょう。

●日常生活への影響

不眠があると、日中の眠気や倦怠感、疲労感、集中力低下などの症状が出ます。「眠れない」ことだけでなく、それによって日常生活にどのような影響があるかが診断の基準にもなることから、その影響についても具体的に聞き取りましょう。

質問例
不眠があることで、どんなことに困っていますか?
日中の活動で、実際に支障が出ていることはありますか?
日常生活に支障が出ていること、困っていることについてどのように感じていますか?

●過去の睡眠状況

睡眠は個人差が大きく、睡眠が十分にとれているかどうかは平均的な睡眠時間だけでは評価できません。患者さん自身が「睡眠が十分にとれている」と感じていたときと比べて睡眠時間がどのくらい短くなっているのか、睡眠時間は変わらないが以前と比べて「寝つきが悪い」と感じているなど、過去のその人の睡眠状況と比べて現在がどうなっているのかを確認することが大切です。

内容 質問例
睡眠時間 不眠になる前は平均何時間ほど寝ていましたか?
熟睡感 以前は朝起きたときに疲労感が残るようなことはありませんでしたか?

●睡眠環境

睡眠は、寝室の環境による影響を受けるため、睡眠環境を把握することも大切です。

内容 質問例
騒音 気になる騒音はありますか?
就寝時の部屋の明るさはどのくらいですか?
温度・湿度 寝室の温度や湿度はどのくらいですか?
エアコンなどで温度調節はできますか?
寝室に湿度計はありますか?

●嗜好品の摂取状況

コーヒーや紅茶に含まれるカフェイン、タバコに含まれるニコチンなどには覚醒作用があり、入眠を妨げることがあります。また、利尿作用のあるカフェインの摂取が夜間頻尿の原因となることがあります。

“寝酒”という言葉があるように、就寝前の飲酒を「入眠の助けになる」と考えている患者さんは少なくありません。睡眠薬の服用を避けたいという理由で、その代わりに飲酒をするという患者さんもいます。しかし、就寝前の飲酒は睡眠の質を低下させることがわかっています。アルコールと睡眠に関する正しい知識を伝え、患者さんに寝酒をしないように促すことが重要です。

質問例
夕方や寝る前にコーヒーや紅茶などを飲みますか?
寝る前に飲酒をする習慣はありますか?
喫煙をしますか?

●睡眠への考え方

睡眠は個人差が大きく、「何時間眠らないといけない」「睡眠時間が短いのは悪いこと」と、考えてしまう患者さんも少なくありません。「~しなければならない」という固定観念が眠れていないことへの不安を増長させ、さらに眠れないという悪循環を招いている場合もあるため、患者さん自身の睡眠に対する考え方を聞き取りましょう。

質問例
何時間眠らなければならないという考えがありますか?
眠れないことを悪いことととらえていますか?
眠れないことで不安になることがありますか?

睡眠状況や考え方に関する聞き取りでは、患者さんが誤った認識をしていたり、思い込みが強く、それにとらわれていることがうかがえることもあります。しかし、誤った知識によって睡眠の質が下がる行動をとっていたり、こだわりが強すぎると感じることがあっても、その場で否定するのは避けましょう。患者さんの状況を最後まで聞き取ったうえで、否定はせずに、正しい知識を伝えるように工夫しましょう。環境要因は患者さんだけでは変えられないこともあるため、必要に応じて家族にも一緒に話をすることも重要です。

<引用・参考文献> ※1 Engstrom CA, Strohl RA, Rose L et al: Sleep alterations in cancer patients. Cancer Nurs 22: 143-148, 1999.
https://www.researchgate.net/profile/Michael-Stefanek/publication/13081423_Sleep_alterations_in_cancer_patients/links/60956d7c92851c490fc358fb/Sleep-alterations-in-cancer-patients.pdf

<参考文献>
川名真理子:症状別のアセスメントと治療・ケア 1.神経症状②睡眠障害.月刊ナーシング,Gakken.41(6)53-61,2021.
厚生労働科学研究班・日本睡眠学会ワーキンググループ作成:睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン―出口を見据えた不眠医療マニュアル―
https://www.jssr.jp/data/pdf/suiminyaku-guideline.pdf
三島和夫:ガイドラインを薬局店頭で活かす第27回睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン―出口を見据えた不眠医療マニュアル―.調剤と情報,じほう.19(9):1185-1191,2013.
上村恵一:セミナー睡眠管理の視点ではなく、患者満足度の視点で不眠へ対処するためのコツ.日本薬剤師会雑誌,日本薬剤師会.72(1):17-20,2020.

保坂サイコオンコロジー・クリニック院長
聖路加国際病院 診療教育アドバイザー
聖路加国際大学臨床教授
京都府立医大客員教授
保坂 隆 先生

1977年慶應義塾大学医学部を卒業後、同大学精神神経科入局。1990年より2年間、米カリフォルニア大学ロスアンゼルス校(UCLA)精神科に留学。東海大学医学部教授、聖路加国際病院精神腫瘍科部長、聖路加国際病院リエゾンセンター長などを経て、現職。

この記事は2023年5月現在の情報となります。

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