がん患者さんに対する睡眠障害(不眠)の治療

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■睡眠障害(不眠)に対する非薬物療法

不眠に対する非薬物療法では、日常生活の指導をはじめとする認知行動療法的なアプローチにより、70~80%で効果があり、50%が臨床的に問題とならない程度にまで改善するという報告があります※1、2

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非薬物療法としては、日常生活の指導のほか、睡眠日誌やリラックス法、認知行動療法などが行われることがあります。

●睡眠日誌

不眠があると、眠っていないにもかかわらず寝床にいる時間が長くなります。睡眠日誌に記録することで、患者さんが認識している睡眠状況と実際に寝ている時間に差があったり、自分の睡眠の特徴を客観的にみたりすることによる気づきが得られます。

睡眠日誌をつけることで、実際にはどのくらいの時間に寝床に入ればスムーズに入眠ができるかがわかってきます。寝床で過ごす時間を減らすことで効率よく睡眠をとることができ、患者さんの満足度の向上も期待できます。日中の行動や体調の変化なども合わせて記載することでがん治療中の体調管理にも役立つことを伝えましょう。

●リラクセーション

漸進性筋弛緩法や自律訓練法、バイオフィードバック法、イメージ療法など、身体をリラックスさせる手法を用いることで、入眠を促す効果が期待できます。

●認知行動療法

睡眠に対して偏った考え方をしている患者さんに対し、その修正を目的として認知行動療法を行うことがあります。不眠が続くことによる不安が強い人などで改善効果が期待でき、患者さん一人ひとりにあった睡眠習慣を身につけることが主な目的です。

非薬物療法はいくつか組み合わせて行うことがあります。患者さんに適した非薬物療法を実践するためにも、睡眠状況や考え方などの聞き取りが非常に重要となります。

薬剤師による睡眠状況チェックのポイントはこちら

■睡眠障害(不眠)の治療薬の特徴と服薬指導のポイント

患者さんの睡眠の状態に合わせて、医師が適した睡眠薬を処方します。薬剤師は患者さんの生活状況や眠れないことでどのようなことに支障をきたしているのかなどを聞き取り、薬の適正使用に向けて情報の提供に努めることが重要となります。とくにベンゾジアゼピン系受容体作動薬はせん妄のリスクになることから、使用を避けられない場合には患者さんや家族に対して十分な説明を行う必要があります。

【主要な不眠症治療薬】

クラス 一般名
オレキシン受容体拮抗薬 スポレキサント
メラトニン受容体作動薬 ラメルテオン
半減期による分類 ベンゾジアゼピン系/非ベンゾジアゼピン系 一般名 消失半減期(T1/2)
超短時間作用型 ベンゾジアゼピン系 トリアゾラム 約3時間
非ベンゾジアゼピン系 ゾルピデム 約2時間
非ベンゾジアゼピン系 ゾピクロン 約4時間
非ベンゾジアゼピン系 エスゾピクロン 約5時間
短時間作用型 ベンゾジアゼピン系 エチゾラム 約6時間
ベンゾジアゼピン系 ブロチゾラム 約7時間
ベンゾジアゼピン系 リルマザホン 約10時間
ベンゾジアゼピン系 ロルメタゼパム 約10時間
中間作用型 ベンゾジアゼピン系 フルニトラゼパム 約20時間
ベンゾジアゼピン系 エスタゾラム 約24時間
ベンゾジアゼピン系 ニトラゼパム 約27時間
長時間作用型 ベンゾジアゼピン系 クアゼパム 約36時間
ベンゾジアゼピン系 ハロキサゾラム 約2〜6日

● オレキシン受容体拮抗薬

せん妄の発症を抑えることが報告されているため、高齢者をはじめ、せん妄リスクの高い患者さんの不眠に使用されています。しかし、ベンゾジアゼピン系や非ベンゾジアゼピン系睡眠薬に比べて“落ちたように眠る”実感が得られないため、患者さんが“薬が効かない”と話すこともあります。患者さんの指導では、自然な睡眠に導く作用のある薬であることなどを丁寧に説明しましょう。

● メラトニン受容体作動薬

睡眠覚醒リズムに関与して睡眠・覚醒サイクルを正常化する作用があるため、入眠困難の患者さんに使われます。依存性や筋弛緩作用などの副作用がないのが特徴ですが、効果が得られるまでに時間がかかるため、継続して使用するように患者さんに十分説明を行う必要があります。

●ベンゾジアゼピン受容体作動薬

入眠困難な不眠に対しては、超短時間作用型や短時間作用型が選択されます。また、睡眠維持困難や早期覚醒などに対しては中間作用型や長期作用型が処方されるのが一般的です。

超短時間作用型や短時間作用型は、投与中止時に反跳性不眠に注意が必要です。また、長時間作用型は、消失半減期が約36時間と長く、効果が日中まで続く可能性があるため、日中に眠気が出ることなどを十分に説明し、理解を得る必要があります。

患者さんへの服薬指導では、薬剤の作用時間と各薬剤の注意点を患者さんにわかりやすく説明することが重要です。

■薬の服用による転倒やせん妄のリスク評価

睡眠薬で多く使われているベンゾジアゼピン系睡眠薬はふらつきや転倒、それによる骨折などのリスクも高くなることが知られています。また、がん治療中は患者さんの全身状態が悪化し、環境要因も加わることでせん妄のリスクも高くなります。

医師は、薬によるせん妄のリスクを踏まえて薬剤を選択しますが、患者さんの状態によって薬を変更することがあるため、薬剤師による評価は重要です。

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● 睡眠薬の長期使用によるリスク

「睡眠薬は、一度使用するとやめられなくなる」「薬が効かなくなって飲む量を増やさなくてはいけなくなる」と考えている患者さんは少なくありません。不眠が改善されれば、医師による適切な指示のもと減薬が可能であることを伝えましょう。睡眠薬のなかには、減薬することで不眠が強くなるものもあり、患者さんが不安を感じることがあります。徐々に改善することなどを丁寧に説明しましょう。自己判断によって中止することによるリスクなども含め、正しい情報を患者さんに理解してもらうことが重要です。

睡眠薬のなかには長期使用による依存性があるものもあります。患者さんが服用しないことへの不安を訴え、長期にわたって処方されているケースも少なくありません。処方されて以降は、患者さんの睡眠状態について定期的に確認し、中止を見据えた減薬が可能かどうかをチームで検討する必要があるでしょう。

患者さんはがんと診断される前から複数の診療科を受診しているケースがあり、かかりつけ医で睡眠薬が処方されていることも少なくありません。薬剤師は、患者さんが以前から服用してきた薬も含め、ポリファーマシーの削減をはかりましょう。

<引用・参考文献>
※1 Morin CM et al: Nonpharmacologic treatment of chronic insomnia. An American Academy of Sleep Medicine review. Sleep, 22(8): 1134-1156, 1999.
※2 Garland SN et al: Sleeping well with cancer: a systematic review of cognitive behavioral therapy for insomniain cancer patients. Neuropsychiatric Disease and Treatment, 18; 10: 1113-1124, 2014.

<参考文献>
・上村恵一:「緩和・サポーティブケア最前線」Ⅱ 生活することを阻害する心の変化とケア 眠ることを阻害する症状 睡眠障害のメカニズムと治療.がん看護,南江堂.20(2):183-187,2015.
・川名真理子:症状別のアセスメントと治療・ケア 1.神経症状②睡眠障害.月刊ナーシング,Gakken.41(6)53-61,2021.
・小川朝生:眠る・休む 患者さんの休息が障害されるときにはなにが起こっているのか~その原因と症状マネジメント.がん看護,南江堂.25(5)増刊,2020.
・上村恵一:セミナー睡眠管理の視点ではなく、患者満足度の視点で不眠へ対処するためのコツ.日本薬剤師会雑誌,日本薬剤師会.72(1):17-20,2020.
・国立精神・神経医療研究センター:眠りと目覚めのコラム睡眠日誌について
https://www.ncnp.go.jp/hospital/sleep-column9.html
・榊原雅人・早野順一郎:就寝前の心拍変動バイオフィードバック訓練が睡眠中の心肺系休息機能に及ぼす影響.日本バイオフィードバック研究,日本バイオフィードバック学会.43(1):11-16,2016.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjbf/42/1/42_KJ00009985804/_pdf/-char/ja
・静岡県立静岡がんセンター:学びの広場シリーズこころ編 がんと情報につきあう方法
https://www.scchr.jp/supportconsultation/book_video.html

保坂サイコオンコロジー・クリニック院長
聖路加国際病院 診療教育アドバイザー
聖路加国際大学臨床教授
京都府立医大客員教授
保坂 隆 先生

1977年慶應義塾大学医学部を卒業後、同大学精神神経科入局。1990年より2年間、米カリフォルニア大学ロスアンゼルス校(UCLA)精神科に留学。東海大学医学部教授、聖路加国際病院精神腫瘍科部長、聖路加国際病院リエゾンセンター長などを経て、現職。

この記事は2023年5月現在の情報となります。

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