一般的な味覚障害の原因と主な症状

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監修医より

監修医より

2019年の全国調査で味覚障害を主訴に医療機関を受診する患者数は推計27万人/年と報告され、増加傾向にありました※1 。生命に直接関わることが少ないため軽視されがちではありますが、毎日の食事時に感じる強い不快感は当の本人からすると何ともつらいものです。味覚障害の原因は多種多様です。ご自身のために、ご家族のために味覚障害を知ること、治せる味覚障害はしっかり治すこと、今は治すことが難しい味覚障害は対策を立てることに取り組んでいきましょう。

「味がしない・薄い」、「何を食べても苦く感じる」などといった症状が味覚障害にみられます。味覚障害の原因は多岐にわたりますが、がん治療に伴う味覚障害は、食欲の減退や生活の質(QOL)低下の大きな要因となり、患者さんの体力維持や治療への意欲低下につながります。

食べものの味がわからない女性

味覚情報の受容と伝達経路

人は食事に含まれる味物質を舌に分布する味蕾でキャッチすると、その情報は味覚受容体から味覚神経線維を通じて延髄孤束核(えんずいこそくかく)に集められます。さらにその情報は視床を経て大脳味覚野に届けられ、甘味、苦味、酸味、塩味、うま味、脂肪味の6つの基本味として認識されます。また、それらの情報は、においや辛味、舌ざわり、冷たさや温かさの情報が大脳で統合され、さらに、扁桃体や視床下部で情報が処理され、食事のおいしさや食欲などにつながります。味蕾の総数は約9,000個といわれており※2 、多くは舌表面の舌乳頭に存在しています(図1)。

図1 舌乳頭と味蕾

味乳頭と味蕾

●咀嚼と唾液分泌

味の情報を味蕾に伝えるサポートをしているのが唾液です。味蕾が味の情報を受け取るためには水分(唾液)が必要で、とくに乾いた食物の味を感知するために欠かせないものとなります。そのためにはまず咀嚼が重要です。十分に咀嚼することで唾液の分泌が促されます。さらに食べ物の表面積が増えます。これによって食べ物と唾液が混ざりやすくなり、唾液のアミラーゼ活性によってでんぷんが分解されて甘味が増すなど、味の情報をとらえやすくする助けとなります。反対に唾液の分泌量が減少すると、味の情報がキャッチされにくくなります。

●味覚と嗅覚

基本6味以外にも、「いちご味」や「バナナ味」など「味」が付く言葉はたくさんあり一般的に「味覚」と思われがちですが、これらの「味」は風味と言い、主に嗅覚がつかさどる感覚です。嗅覚は、においの分子が鼻腔内に入り込み、嗅粘膜の粘液に溶け込むことで嗅細胞から大脳に情報が送られ、においとして感じ取るものです。味覚と嗅覚の情報の伝達経路は異なるものの、両者は大脳で統合し、密接に関連しています。味覚障害と嗅覚障害を併発している患者さんもいるため、嗅覚味覚検査によって判断する必要があります。

味覚障害の原因

味覚障害は受容器(味蕾)や末梢神経(鼓索神経〈こさくしんけい〉、舌咽神経〈ぜついんしんけい〉、大錐体神経〈だいすいたいしんけい〉)、中枢神経(脳)の障害(器質性、機能性〈心因性含む〉)、唾液分泌低下による伝達障害によって起こります。その原因は多岐にわたり、原因不明の「特発性」の割合が高いのも特徴です(表1)。

表1 味覚障害の主な原因

原因 内容
特発性 原因が特定できないが、心身の調整で改善する場合が多い
心因ストレス ストレス症状として現れることがある
薬剤 細胞障害性や亜鉛キレート作用をもつ薬剤などによる受容器障害、味覚受容体拮抗、薬剤による口腔内乾燥が原因の伝達障害があげられる
亜鉛欠乏 血清亜鉛値が80μg/dL未満のもの。亜鉛が欠乏すると味細胞の代謝が遅くなり、味がわかりにくくなる
感冒 上気道のウイルス感染罹患後に起こりやすく、上気道の炎症が消失した後も受容器障害が続くもの。嗅覚障害を合併していることが多い
全身疾患 腎疾患や消化器疾患、肝疾患、甲状腺疾患、免疫疾患、内分泌疾患などによる受容器障害が原因と考えられる
医療行為 抜歯などの歯科処置、口蓋扁桃摘出術や中耳手術などに伴う味覚神経障害、放射線治療などに伴う受容器障害が原因となる
鉄・ビタミン欠乏 鉄、ビタミンB12 や葉酸欠乏なども細胞代謝異常の原因となる
外傷 頭部の外傷によって味覚をつかさどる脳がダメージを起こし、味覚の認知が悪くなる。嗅覚障害を合併していることが多い
精神疾患 統合失調症やうつ病、認知症、身体症状症などの症状で現れることがある

味覚障害の症状

味覚障害は一般的に表2のような症状が自覚されますが、症状の程度やつらさには個人差があります。

表2 味覚障害の症状

量的異常味覚 味覚消失 まったく味がしない
味覚低下 味が薄いと感じる、味を感じにくい
解離性味覚障害 甘味などの特定の味だけがわかりにくい
味覚過敏 通常よりも味覚がよく、敏感な人を指すが異常ではない
質的異常味覚 異味症 親しんできた味と違う(しょうゆを苦く感じるなど)
悪味症 何を食べても嫌な味がする
自発性異常味覚 口のなかに何もないのに苦味や塩味など特定の味を感じる
錯味症 酸味を塩味と誤答してしまう(検査上における所見)
味覚過敏 特定の味だけ濃く感じて不快になる
味が濃く感じて不快な男性

味覚の減退や消失など、味の感じ方の程度が障害されるのが量的味覚障害、味の感じ方が変わってしまう、一部の味を感じなくなる障害が質的味覚障害です。

<文献>

※1 Nin T, Tanaka M, Nishida K, Yamamoto J, Miwa T.; A clinical survey on patients with taste disorders in Japan: A comparative study. Auris Nasus Larynx. 49(5): 797-804, 2022.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35094891/
(2024年8月14日閲覧)
※2 池田稔・生井明浩:味覚の基礎と臨床についての概説.耳鼻咽喉科展望,耳鼻咽喉科展望会,38(6):762-768,1995.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/orltokyo1958/38/6/38_6_762/_pdf
(2024年8月14日閲覧)
Nin T, Tsuzuki K. Diagnosis and treatment of taste disorders in Japan. Auris Nasus Larynx. 51(1):1-10,2024.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37117102/
(2024年8月14日閲覧)
石川寛著・野村久祥編:がん薬物療法の「スキマ」な副作用~困った症状と正しく向き合う!~ 第3回味覚障害(味覚異常).月刊薬事,じほう.60(4):107-113,2018.
栗橋健夫:栄養を科学するイラスト解説 味覚障害のメカニズムを探る! 唾液と咀嚼のはたらき.Nutrition Care,メディカ出版,14(8):16-22,2021.
任智美:栄養を科学するイラスト解説 味覚障害のメカニズムを探る! 全身性疾患と味覚障害.Nutrition Care, メディカ出版.14(8):36-40,2021.
任智美ほか:総説「教育講演 味覚の基礎と臨床」味覚障害の基礎と臨床.口腔・咽頭科,日本口腔・咽頭科学会,30(1)31-35,2017.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/stomatopharyngology/30/1/30_31/_pdf
(2024年8月14 日閲覧)
東加奈子・竹内裕紀:栄養を科学するイラスト解説 味覚障害のメカニズムを探る! 薬剤と味覚障害の関係.Nutrition Care,メディカ出版 14(8):41-45,2021.
古賀亜希子・菊池由宣:がん患者さんの“食”を守るアセスメントとケア どんなときに起こる?シチュエーション別に学ぶ食の悩みアセスメント&ケア がん薬物療法による悪心・嘔吐、味覚障害(予測的悪心・嘔吐を含む).YORi-SOUがんナーシング,メディカ出版,12(6):17-20,2022.
厚生労働省:重篤副作用疾患別対応マニュアル 薬物性味覚障害
https://www.pmda.go.jp/files/000245252.pdf
(2024年8月14日閲覧)
小林由佳ほか:特集:がん患者に対する栄養療法と周辺の問題 がん化学療法に伴う摂食障害(悪心嘔吐、味覚異常など)の対策.静脈経腸栄養,日本栄養治療学会,28(2):39-46,2013.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjspen/28/2/28_627/_pdf
(2024年8月14日閲覧)
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https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsodom/35/3/35_173/_pdf/-char/ja
(2024年8月14日閲覧)
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https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrhi/56/4/56_487/_pdf/-char/ja
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兵庫医科大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科
任 智美 先生

2002年兵庫医科大学卒業後、同大学耳鼻咽喉科、神戸百年記念病院耳鼻咽喉科勤務を経て、2009年ドイツ・ドレスデン嗅覚・味覚センターに留学。2011年兵庫医科大学学内講師、2014年同講師に就任。現在に至る。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会耳鼻咽喉科専門医、日本耳鼻咽喉科学会認定補聴器専門医。日本口腔・咽頭科学会理事、日本味と匂い学会、小児耳鼻咽喉科学会評議員、日本耳科学会会員、日本嚥下医学会会員、日本音声言語学会会員など。専門分野は味覚、幼児難聴、補聴器、漢方治療。

この記事は2024年8月現在の情報となります。

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