排尿障害の主な症状

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監修医より

監修医より

排尿に関する症状で難しい点は、患者さんの主訴だけでは容易に診断がつかないことにあります。泌尿器科医は患者さんの感じている症状がどのような尿路の異常から起こっているのかを超音波画像診断や内視鏡検査などから判断しています。症状のみで診断してしまった結果、正反対の治療をしてしまう恐れがあるからです。判断が難しいことを患者さんにお伝えいただき、検査を受けるよう促してください。

がんやがん治療の影響によって膀胱の容量が小さくなったり、排尿筋の収縮力が低下したり、膀胱の出口の開閉が障害されたりすることでさまざまな排尿に関連する症状が起こります。大きくわけて排尿症状、蓄尿症状、排尿後症状などがあります。

がんやがん治療に伴う主な排尿障害の症状

排尿障害の症状やその重症度は患者さんによって異なりますが、がんやがん治療によって起こりやすい症状には次のようなものがあげられます(表1)。

表1 主ながんやがん治療に伴う排尿障害の症状

がん の種類 頻尿 尿失禁 排尿痛 血尿 排尿困難
膀胱がん
膀胱内注入療法
手術(経尿道的膀胱腫瘍切除術)
前立腺がん
手術
放射線 外照射
(急性期)

(急性期)

(晩期)
小線源
子宮がん(子宮体がん、子宮頸がん)
手術
放射線
卵巣がん
手術
直腸がん
手術
放射線

(病期や手術の範囲により影響は異なります)

排尿症状

膀胱に尿が溜まる(蓄尿)と、末梢神経や中枢神経から大脳に刺激が伝わって排尿のサインが出されて尿道括約筋が緩み、膀胱が収縮して膀胱の出口が開き、尿が排出(排尿)されます(図1)。

がんやその治療によって尿路組織に障害が及んだり、排尿中枢が障害されたりすることで、排尿の過程に何らかの障害が起こります。

図1 蓄尿期と排尿期

膀胱の蓄尿期と排尿期

【主な排尿症状】

尿勢低下 尿の排出の勢いが以前よりも悪い、または、他の人に比べて悪い状態
尿線分割
尿線散乱
排尿時、尿線が乱れ、飛び散り、便器の外に出てしまうことがある状態
排尿遅延 トイレに入って排尿ができる状態であるのに、排尿が始まるまでに時間がかかる状態
腹圧排尿 排尿をするまでや排尿状態を維持するのにお腹に力を入れないといけない状態
終末滴下 排尿が終わっても尿の切れが悪くだらだらとしずく状態の尿が落ちてくる状態
排尿トラブルに悩む男性

●尿閉による尿失禁

慢性的な残尿で膀胱内の尿量が増えると膀胱の内圧が上昇します。これによって尿道から尿があふれて尿失禁を起こすことがあります。これを溢流性尿失禁といいます。この場合は水腎症などに陥っている可能性があり、治療が必要となることが多いため、すぐに主治医に申し出るように伝えます。

蓄尿障害

蓄尿障害は、膀胱内に尿が十分溜められないことが原因で、頻尿や尿失禁などの症状が出るものです。
一般的に、日中8回以上、夜間1回以上排尿がある場合に頻尿とされますが、患者さんの睡眠時間や水分摂取量、併存疾患などによっても異なります。また、一般的には頻尿とされないものであっても夜間にトイレに起きてしまいその後なかなか寝つけないなどの理由から、生活に支障が出てしまうことがあります。

尿失禁の症状がある男性

また、尿失禁も蓄尿障害の代表的な症状で、尿失禁には次のような種類があります(表2)。

表2 尿失禁の種類

機能性
尿失禁
認知機能の低下や身体活動能力の低下に伴って生じるもので、トイレ以外の場所でも排尿してしまう
切迫性
尿失禁
蓄尿時に膀胱が収縮してしまうことで急に尿意を催し、我慢ができずもらしてしまう
腹圧性
尿失禁
重いものを持ち上げる、くしゃみや咳をするなど、腹圧が上がる行為をしたことで尿がもれてしまう
混合性
尿失禁
切迫性尿失禁と腹圧性尿失禁の両方の症状がみられる
溢流性
尿失禁
排尿症状によって膀胱内に残尿があり、常に膀胱が充満しているため、尿が膀胱からあふれて少しずつもれてしまう
反射性
尿失禁
尿意を伴わずに膀胱内に尿が溜まったことで膀胱収縮反射が意識しないままに起こってしまい、尿がもれてしまう
真性尿失禁 女性に起こる尿失禁で尿管腟ろうや膀胱腟ろうなどが原因で尿がもれてしまう

尿失禁が原因で外出を控えることになったり、心理的な負担が増したりすることで、さらに症状を悪化させてしまう原因になることがあります。

その他の排尿障害

主な排尿障害は排尿症状と蓄尿障害ですが、このほかにも排尿後症状などがみられることがあります。また、加齢とともに夜間頻尿や過活動膀胱などの症状を訴える人は増えていきます。

●排尿後症状

排尿後症状は、排尿時よりも後に生じるもので、排尿後にまだ膀胱に尿が残っていると感じたり、トイレから出た後に下着に尿がもれてきたりするものを排尿後症状といいます。

●その他の症状

その他の排尿に関する症状としては、疾患などの明らかな原因がない頻尿や夜間頻尿、過活動膀胱や膀胱出口閉塞などがあります。過活動膀胱は女性に、膀胱出口閉塞は男性に多いといわれています。

<文献>

日本緩和医療学会緩和医療ガイドライン委員会編:がん患者の泌尿器症状の緩和に関するガイドライン2016年版.金原出版,2016.
日本泌尿器科学会:男性下部尿路症状・前立腺肥大症診療ガイドライン.リッチヒルメディカル,2017.
がん情報サービス:膀胱がん
https://ganjoho.jp/public/cancer/bladder/index.html
がん情報サービス:前立腺がん
https://ganjoho.jp/public/cancer/prostate/index.html
がん情報サービス:子宮頸がん
https://ganjoho.jp/public/cancer/cervix_uteri/index.html
がん情報サービス:子宮体がん
https://ganjoho.jp/public/cancer/corpus_uteri/index.html
がん情報サービス:大腸がん(結腸がん、直腸がん)
https://ganjoho.jp/public/cancer/colon/index.html
がん情報サ-ビス:さまざまな症状への対応 尿がもれる・トイレが近い~がんの治療を始めた人に、始める人に~
https://ganjoho.jp/public/support/condition/urine01/index.html
健康長寿ネット:高齢者の排尿障害と対策
https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/kenko-cho/haisetsushogaitaisaku.html
日本泌尿器科学会:こんな症状があったら 尿が出にくい・尿の勢いが弱い・尿をするのに時間がかかる 
https://www.urol.or.jp/public/symptom/05.html
中村一郎:特集 ひとつ上を行く!がんの症状緩和実践的ノウハウ がん患者の泌尿器症状のマネジメント 頻尿・尿失禁のアセスメントと治療.月刊薬事,じほう,59(3):83-91,2017.
本田正史・武中篤:第2特集解剖学的に理解する!骨盤底筋群と骨盤底筋訓練 前立腺がん術後の男性の尿失禁を理解する.泌尿器ケア,メディカ出版,20(11):96-103,2015.
日本婦人科腫瘍学会:子宮頸癌治療ガイドライン2022年版.金原出版,2022.
日本放射線腫瘍学会監:やさしくわかる放射線治療学.Gakken,2018.
後藤志保:特集 女性のがん~治療とケアの最前線~ 女性のがん特有のケア 婦人科がん放射線療法後合併症のマネジメント~排尿障害・排便障害~.がん看護,27(6):581‐584,2022.

医療法人社団誠馨会セコメディック病院 訪問診療部部⾧ 緩和ケア外科部⾧ 地域連携室⾧ 三浦剛史先生

医療法人社団誠馨会セコメディック病院
訪問診療部部長 緩和ケア外科部長 地域連携室長
三浦 剛史 先生

1993年日本医科大学医学部卒業、1994年日本医科大学泌尿器科学教室、日本医科大学付属病院等勤務を経て、2004年日本医科大学千葉北総病院Pain management teamに参加。2006年に緩和ケアチームリーダー緩和ケア委員会委員長に就任。2015年、三井記念病院緩和ケア科部長、2017年セコメディック病院泌尿器科緩和ケア部長を経て、2023年より現職。泌尿器科専門医・指導医、日本緩和医療学会認定医等。日本泌尿器科学会前立腺癌診療ガイドライン協力委員、日本緩和医療学会泌尿器症状ガイドライン改定WPG員長などを務める。

この記事は2023年11月現在の情報となります。

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