排尿障害に対する治療

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監修医より

監修医より

排尿日誌は泌尿器科診療の重要な情報です。ご本人ができるセルフケアにつなげるため、排尿日誌の記載をお勧めいただくことは有益と思われます。ただし、良くも悪くも専門家の意見は患者さんにとってインパクトがあります。手段が目的化してしまうことは避ける必要があり、排尿日誌だけでなく、日常生活の飲水指導も然りで、情報の提供の仕方には配慮が必要です。

がん治療に伴う排尿障害は一時的なもので、徐々に改善するケースが多いとされています。しかし、なかには重い症状で日常生活に支障をきたす人もいます。行動療法に取り組み、必要に応じて薬物療法などを行うことで、患者さんの生活の質(QOL)向上が期待できます。

行動療法(日常生活の見直しと理学療法)

原因疾患を問わず、排尿障害に対しては行動療法や理学療法などを行うのが一般的です。
行動療法には水分摂取量や体重の管理、便秘の予防などの日常生活の見直しのほか、膀胱訓練、骨盤底筋トレーニングなどの理学療法があります。

膀胱訓練、骨盤底筋トレーニングのやり方についてはこちら

●水分摂取

多尿や頻尿がみられる場合には、水分摂取量が多すぎることも考えられます(2L/日以上)。多尿の場合には、水分摂取量を抑えることで症状が軽減することがあります(表1)。

とくに夕食以降に水分摂取が多いと夜間多尿、頻尿の原因となり、睡眠にも影響が及びます。また、夕方以降はアルコールやカフェインなどの利尿作用が強いものを控えるように指導します。

水を飲む男性

表1 1日の水分摂取量の目安

1日3回摂食可能な患者さんの場合
食事以外の水分摂取量:体重の2~2.5%
24時間尿量:体重1kgあたり尿量20~25mL
例:体重50kg=1,000~1,250mL、体重60kg=1,200~1,500mL

一方で、排尿障害がある患者さんのなかには、トイレが近くなることを懸念して水分摂取を控えてしまう人もいます。人の身体は約60%が水分で、その5%が失われるだけでも脱水症状が起こるといわれており、水分摂取量の不足は、脳梗塞や心筋梗塞のリスクにもなります。そのため、水分摂取が過剰な場合には制限が必要ですが、1日に必要な水分量は減らさないように指導することが重要です。

排尿日誌をつけることで、1日の水分摂取量と尿量(イン・アウト)の状況を把握することができます。24時間尿量が適正になるように、水分摂取量を調整し、コップ何杯分までなど、具体的に伝えることで、患者さんが取り組みやすくなります。

排尿日誌のつけ方はこちら

●体重管理

過体重の人は減量によって尿もれが軽減することがあります。バランスの良い食事や適度な運動で適正体重を維持することが重要です。がんの治療によって体重に影響が出ることもあるため、体重を測る習慣をつけるように指導するとよいでしょう。食事や運動に関して不安なことや困っていることがあれば、医療従事者に相談することを伝えます。

便秘の男性

●便秘の予防

便秘でおなかが張ると、膀胱が圧迫されてトイレの回数が増える原因になります。便秘は、がんによる大腸の圧迫や閉塞、がん治療薬やオピオイドの副作用が原因で生じることもありますが、がん治療に伴う生活習慣の変化が重なることも影響しています。

便秘の予防に対しては、食物繊維を摂ること、運動習慣をつけることが重要です。便秘が強い場合には下剤を使用しますが、オピオイドなどの副作用による便秘に対しては、原因となる薬の減薬も選択肢となります。患者さんに対しては日常生活のなかでできる改善策を指導するとともに、便秘に伴う腹痛や嘔吐、おなかの強い張りなどがある場合には、医療従事者に相談することを伝えます。

●その他日常生活における注意点

刺激が強い食べ物を摂ることで排尿症状が出ることがあります。また、身体が冷えることでトイレが近くなることがあるため、過度な冷えを避けるように注意を促します。

トイレに行く通路が狭いなど、環境的な要因がある場合には、自室をトイレの近くにする、通路を片付けるなどの環境調整が有効なこともあります。

薬物療法(薬剤師による服薬指導のポイント)

薬物療法では、尿の排出障害に対し、尿道の抵抗を抑える目的でαアドレナリン受容体遮断薬、PDE5阻害薬などが使われます。ただし、αアドレナリン受容体遮断薬で女性の排出障害に対して適応があるのは、ウラピジルのみとなっています(神経因性膀胱に伴う排出障害)。また、蓄尿障害に対しては膀胱の弛緩促進と異常収縮の抑制を目的に、抗コリン薬、β3アドレナリン受容体刺激薬が選択肢となります(表2)。

このほか、腹圧性尿失禁の患者さんに対してはクレンブテロール塩酸塩など、男性の夜間頻尿に対しては、抗利尿作用のあるデスモプレシン酢酸塩水和物などが使われます。

表2 主な排尿障害の治療薬

薬効 主な薬剤の一般名
αアドレナリン受容体遮断薬 シロドシン、タムスロシン塩酸塩、ナフトピジル、テラゾシン塩酸塩水和物、ウラピジル、プラゾシン など
PDE5阻害薬 タダラフィル
抗コリン薬 イミダフェナシン、コハク酸ソリフェナシン、フェソテロジンフマル酸塩、オキシブチニン塩酸塩、プロピベリン塩酸塩、トルテロジン酒石酸塩 など
β3アドレナリン受容体刺激薬 ミラベグロン、ビベグロン

※このほかにも排尿症状に対する治療薬はありますが、排出障害(頻尿)、蓄尿障害に絞って記載しています。

手術療法など

行動療法や薬物療法のほかに、神経変調療法や人工尿道括約筋、恥骨固定式スリング術などの手術療法があります。神経変調療法には電気刺激療法や磁気刺激療法などがあります。前立腺がんの手術後の排尿障害に対しては、電気や磁気で骨盤底筋や膀胱排尿筋を刺激するとともに、骨盤底筋トレーニングを行うことが多いといわれています。また、近年では皮膚の下に埋め込んだ刺激装置から仙骨神経を刺激して頻尿や尿もれを改善する仙骨神経刺激療法も行われています。

がんの手術から1年が経過しても尿失禁が続く場合には、下部尿路の機能を評価したうえで、手術を検討します。

<文献>

日本緩和医療学会緩和医療ガイドライン委員会編:がん患者の泌尿器症状の緩和に関するガイドライン2016年版.金原出版,2016.
日本泌尿器科学会:男性下部尿路症状・前立腺肥大症診療ガイドライン.リッチヒルメディカル,2017.
厚生労働省:重篤副作用疾患別対応マニュアル 尿閉・排尿困難
https://www.pmda.go.jp/files/000240111.pdf
厚生労働省:「健康のために水を飲もう」推進運動
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/topics/bukyoku/kenkou/suido/nomou/index.html
がん情報サービス:尿がもれる・トイレが近い もっと詳しく
https://ganjoho.jp/public/support/condition/urine01/ld01.html
国立長寿医療センター泌尿器科:一般内科医のための高齢者排尿障害診療マニュアル
https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/urination_manualv2.pdf
日本排尿機能学会/日本泌尿器科学会編:女性下部尿路症状診療ガイドライン[第2版].リッチヒルメディカル,2019.
https://www.urol.or.jp/lib/files/other/guideline/38_woman_lower-urinary_v2.pdf
本田正史ほか:前立腺癌診療のコツ 前立腺全摘除術の排尿リハビリについて.ESPOIR,メディカルレビュー社,3(1):36-39,2020.
中村一郎:特集 ひとつ上を行く!がんの症状緩和実践的ノウハウ がん患者の泌尿器症状のマネジメント 頻尿・尿失禁のアセスメントと治療.月刊薬事,じほう,59(3):83-91,2017.
丹波光子:特集排尿ケアとリハビリテーション 前立腺癌術後、婦人科がん術後がん患者.総合リハビリテーション,医学書院,45(10)1019-1023.
医療法人社団誠馨会セコメディック病院 訪問診療部部⾧ 緩和ケア外科部⾧ 地域連携室⾧ 三浦剛史先生

医療法人社団誠馨会セコメディック病院
訪問診療部部長 緩和ケア外科部長 地域連携室長
三浦 剛史 先生

1993年日本医科大学医学部卒業、1994年日本医科大学泌尿器科学教室、日本医科大学付属病院等勤務を経て、2004年日本医科大学千葉北総病院Pain management teamに参加。2006年に緩和ケアチームリーダー緩和ケア委員会委員長に就任。2015年、三井記念病院緩和ケア科部長、2017年セコメディック病院泌尿器科緩和ケア部長を経て、2023年より現職。泌尿器科専門医・指導医、日本緩和医療学会認定医等。日本泌尿器科学会前立腺癌診療ガイドライン協力委員、日本緩和医療学会泌尿器症状ガイドライン改定WPG員長などを務める。

この記事は2023年11月現在の情報となります。

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