排尿障害に対するセルフケア

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監修医より

監修医より

実際に患者さんやご家族の指導は医師や看護師が実施する場合がほとんどですので、直接薬剤師の皆様にご指導いただくことはないでしょう。しかし、実際にこのような指導をしているという情報を知っていただくことは重要と考えます。患者さんやご家族からセルフケアについて疑問を感じているような場合は、医師や看護師に情報伝達をお願いいたします。

排尿障害の行動療法は、患者さんが自分で取り組むものが多く、多職種がその指導にあたります。患者さんががん治療後もセルフケアを継続できるような指導・支援が求められます。

膀胱訓練と排尿日誌のつけ方

膀胱訓練は、トイレに行く時間帯を決め、その間隔を徐々にあけていくことで膀胱の容量を増やすことを目的としています。

●膀胱訓練

尿意を催してもすぐにトイレには行かず、患者さんごとに設定された排尿間隔を守れるように、可能な限り我慢をし、時間帯を決めて排尿する練習を継続するのが膀胱訓練です。最終的には患者さんの排尿状態に合わせて日中2~3時間ごとに設定できるようになるまで継続します。

【膀胱訓練のやり方】

尿意を感じてもすぐにトイレに行かないように、5分程度我慢します。このときに気を紛らわせたり、リラックスしたりできるようにと、患者さんが尿意を意識せずにいられる方法を探すようにします。身体を動かすと尿意が強くなりやすいため、できるだけ身体は動かさずに骨盤底筋を締めてゆっくり呼吸をします。

膀胱訓練を行う患者

この膀胱訓練を通じて膀胱に溜められる尿が増え、排尿間隔が徐々に伸びていきます。継続できていることを励ますなど、医療従事者の働きかけも大切です。

●自己導尿

自己導尿は、専用のカテーテルを尿道口に入れて排尿するもので、薬物療法による効果が十分でない排出症状のある患者さんに対して行われます。定期的に自己導尿を行うことで膀胱の内圧を下げ、膀胱の過伸展の改善が期待でき、腎機能の維持や尿路感染症の予防になります。自己導尿は、1日4~6回が一般的ですが、患者さんの膀胱の容量や1日の尿量によっても異なります。自己導尿は、清潔な状態で行うことが重要です。

●排尿日誌

排尿日誌は、自分の現在の尿意がどのくらいの時間帯に多いのか、摂取している水分量はどのくらいかなどを記録してもらうものです(図1)。尿もれの有無や回数、状態などをみながら、医師が膀胱訓練の排尿時間間隔を設定します。

薬剤師は、患者さんが服用している薬剤と排尿日誌を確認するとともに、患者さんからの聞き取りを行ったうえで、薬の効果を評価し、必要に応じて医師に薬の変更などを提案します。とくに夜間の頻尿などは睡眠にも影響を及ぼすため、夜間に何度もトイレに行く場合には、患者さんの睡眠状態も確認します。

図1 排尿日誌の書き方

排尿日誌の書き方

排尿日誌はこちらからダウンロードできます

骨盤底筋トレーニング

骨盤底筋トレーニングは、尿道や肛門を意識的に締めたり緩めたりする動きをすることで骨盤底筋を鍛えるものです。

●骨盤底筋群とは

骨盤底筋群は骨盤の底の筋肉群のことで、内臓や膀胱、前立腺(男性)、子宮(女性)などの臓器を下から支えています(図2)。しかし、前立腺や膀胱、子宮などのがんをはじめとする病気やその治療、加齢などが原因で骨盤底筋が弱くなると臓器が下がってきます。常に身体の外に最も近い膀胱がほかの骨盤内臓器に押された状態となるため、わずかな力がかかるだけでも尿がもれてしまいます。

図2 骨盤底筋(女性)

女性の骨盤底筋

骨盤底筋トレーニングは、毎日継続することで尿道や肛門を締めやすくなり、尿もれなどの改善が期待できます。なかでも、前立腺全摘手術を受けた人の尿失禁に対して有効であるとする報告は数多く※1、手術30日前から手術後も継続的に行った場合にとくに効果的であったとする報告もあります※2。ただし、効果が現れるまで時間がかかることもあるため、患者さんが習慣づけられるように支援することが重要です(図3)。

骨盤底筋を鍛えることで、骨盤内の臓器などを支える力の低下を防ぐことができ、尿もれが起こりにくくなるといわれています。

骨盤底筋トレーニングで重要なのは、骨盤底筋群をしっかり意識して行うことです。リラックスした状態で肛門、尿道を締めて陰部を引き上げるようなイメージで行います。その感覚を伝えるときには「尿を途中で切るようなイメージ」「尿を我慢するイメージ」など、患者さんが過去に経験していることを伝えると、患者さんの理解が得やすくなります。

図3 骨盤底筋トレーニングのやり方

1. 身体の力を抜き、リラックスしましょう
2. 背筋を伸ばして足を肩幅くらいに開きます
3. 正しい姿勢で、骨盤底筋が締まっていることを意識します
4. ゆっくり5つ数えながら骨盤底筋を締めた状態でキープします
5. 5つ数え終わったらゆっくり力を抜きます

仰向けに寝て行う骨盤底筋トレーニング

・仰向けに寝て行う場合
仰向けに寝て足を肩幅程度に開き、ひざを少し曲げます。身体の力を抜いて肛門、尿道(女性の場合は腟)を締めた状態で5つ数えます。

ひじやひざをついて行う骨盤底筋トレーニング

・ひじやひざをついて行う場合
床にひじをついた状態でクッションの上にひじを置きます。ひじを立てて手をあごの上に置いてもよいでしょう。肛門と尿道(女性の場合は腟)を締めた状態で5つ数えます。

机に手をついて行う骨盤底筋トレーニング

・机に手をついて行う場合
手と足は肩幅程度に開き、手を机のうえに乗せて安定させます。体重を腕にかけた状態で背中を伸ばし、顔は正面に向けます。肩とお腹の力を抜いてゆっくりと肛門と尿道(女性の場合は腟)を締めて5つ数えます。

椅子に座って行う骨盤底筋トレーニング

・椅子に座って行う場合
足は肩幅程度に開いて床にしっかりつけます。背中はまっすぐに伸ばし、顔は正面に向きます。肩とお腹の力を抜いてお腹が動かないように意識しながらゆっくりと肛門と尿道(女性の場合は腟)を締めて5つ数えます。

仰向けや腹ばい、立ってテーブルに手をついて、座った状態など、患者さんのやりやすい方法で、尿道や肛門を締める、緩めるという一連の動きを1回として、10回1セットを毎日3セット行います※1

患者さんが毎日継続しやすいように、生活様式を聞き取りながら実施するタイミングを一緒に検討します。

下着やパッドの使い方

外出する機会が減ると気持ちが沈んだり、治療後の体力の回復が遅れたりする要因にもなります。尿もれの不安がある場合には、尿とりパッドを使うと安心です。男性の場合には、陰部を包むタイプや巻きつけるタイプ、下着に張り付けるタイプなど、いくつかの種類があります。患者さんが使いやすいもの、もれる尿量に対して適したパッドを使うように勧めます(図4)。

図4 男性用の尿とりパッド例

男性用の尿とりパッド例

下着は締め付けが強いものは避ける必要がありますが、ゆるすぎてもパッドがずれて衣服に尿が染み出す原因になります。また、薄すぎる下着もパッドから尿がもれ出て衣服が汚れる原因になります。陰部があたる場所が二重構造になっている失禁用の下着などを選ぶようにアドバイスします(表1)。

表1 尿とりパッドを選ぶ際のポイント

・もれる尿の量とパッドの吸収量が合うものを選ぶ
・尿もれパッドは尿の吸収位置によって男性用と女性用があり、男性用は形状や使い方によってもいくつかの種類がある
・外出時などのにおいが気になるときには消臭機能があるものを選ぶ

椅子から立ち上がったときや重いものを持って腹部に力が加わったときなど、尿もれしやすいタイミングを伝えておくことで、患者さんの不安も軽減できます。下着やパッドを不潔にすると感染リスクが高まるため、尿もれに気づいたらできるだけ早くパッドを交換するように指導します。携帯できる陰部洗浄器などがあると、外出先でのパッド交換時に便利です。

外出時には使用後の尿とりパッドを廃棄するためのビニール袋を持参することやトイレ内にゴミ箱があるかどうかを確認することなど、患者さんのパッドの使用場面を想定して具体的なアドバイスをすることで、患者さんの不安が軽減できます。

<文献>

※1  日本泌尿器科学会:男性下部尿路症状・前立腺肥大症診療ガイドライン.リッチヒルメディカル,2017.
※2  Centemero A, Rigatti L, et al . Preoperative pelvic fl oor muscle exercise for early continence after radical prostatectomy: a randomised controlled study. Eur Urol 57:1039-1043, 2010
日本緩和医療学会緩和医療ガイドライン委員会編:がん患者の泌尿器症状の緩和に関するガイドライン2016年版.金原出版,2016.
がん情報サービス:尿がもれる・トイレが近い もっと詳しく
https://ganjoho.jp/public/support/condition/urine01/ld01.html
河口志乃:前立腺全摘除術後の排尿障害とケア.看護技術,メジカルフレンド社,68(4):51-54,2022.
中島勇樹:がんの理学療法.理学療法の臨床と研究,広島県理学療法士会,30,2021.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jptpr/30/0/30_17/_pdf/-char/ja
寒河江和子,国重敦子,堀美智子:服薬指導実践塾第16回 頻尿・尿失禁.調剤と情報,じほう,15(4):89-99,2009.

医療法人社団誠馨会セコメディック病院 訪問診療部部⾧ 緩和ケア外科部⾧ 地域連携室⾧ 三浦剛史先生

医療法人社団誠馨会セコメディック病院
訪問診療部部長 緩和ケア外科部長 地域連携室長
三浦 剛史 先生

1993年日本医科大学医学部卒業、1994年日本医科大学泌尿器科学教室、日本医科大学付属病院等勤務を経て、2004年日本医科大学千葉北総病院Pain management teamに参加。2006年に緩和ケアチームリーダー緩和ケア委員会委員長に就任。2015年、三井記念病院緩和ケア科部長、2017年セコメディック病院泌尿器科緩和ケア部長を経て、2023年より現職。泌尿器科専門医・指導医、日本緩和医療学会認定医等。日本泌尿器科学会前立腺癌診療ガイドライン協力委員、日本緩和医療学会泌尿器症状ガイドライン改定WPG員長などを務める。

この記事は2023年11月現在の情報となります。

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