がん患者の体重減少

医療従事者向けPDF 

患者さん・家族向けPDF 

監修医より

監修医より

がん患者さんの体重減少の原因として、栄養摂取の不足によるものと悪液質によるものに分けられますが、実際にはこの2つの要因が混在していると考えられています。栄養摂取を妨げるような身体症状がある場合は、まずその原因を明らかにすることが大事です。そのうえで、症状の緩和や予防的な処置をすることで食事をとることができるように努めましょう。また、がん患者さんではうつ状態のような精神的な問題で食欲が低下する場合も多くみられます。

がん患者さんの多くにみられる症状に体重減少があります。がん治療やその副作用によって一時的に起こるものもありますが、がん悪液質による骨格筋や脂肪の分解亢進が原因の場合、全身状態が悪化してがん治療が困難になったり、生命予後に影響を及ぼしたりすることがあります。

食欲がない男性

がん患者さんの体重減少

がん患者さんの体重減少には大きくわけて、がん関連体重減少とがん悪液質によるものがあります。この2つは異なる病態ではあるものの、混在することが多く、がん関連体重減少に摂食を妨げる症状(抗がん剤の副作用など)が加わることで、がん悪液質に至ることも少なくありません(図1)。

図1 がん患者さんの体重減少

がん患者さんの体重減少

がん種によって、治療前からがん悪液質がある患者さんは、体重減少が少ないがん患者さんに比べて予後が悪いことが明らかになっています。全身状態の指標のひとつであるPS(パフォーマンスステータス)*)が良好な進行非小細胞肺がんの患者さんを対象にした前向き研究では、体重減少率が大きいほど生存期間が有意に短縮しており、握力の低下やQOL(生活の質)低下、PSの低下にも関連していました※1)。またBMIを評価した研究では、BMIが小さいほど体重減少による予後への影響が大きいことも報告されています※2)

また体重減少は、抗がん剤治療による副作用の増強や感染症の重症化リスクを高める原因となります。抗がん剤の副作用によって治療継続が困難になることもあります。

がん治療の継続を支援する薬剤師は、治療開始前の服薬指導の段階から食欲の低下や体重減少ががん治療に与える影響について十分に説明し、抗がん剤の副作用によって食事がとれないときの対応についても患者さんや家族に指導することが大切です。

*)PS(パフォーマンスステータス):米国の腫瘍学団体であるECOG(Eastern Cooperative Oncology Group)が定めた全身状態の指標で、患者さんの日常生活の制限の程度を0~4の5段階で表したもの。

がん関連体重減少

がん関連体重減少は、体重維持に必要な食事が摂取できないことによる飢餓状態、つまり「食べられないことによってやせる」もので、がんやがん治療による二次性の症状です。そのため、がん治療終了後に食事量が徐々に増加することで回復していきますが、ここに摂食に影響を与える症状(NIS:nutrition impact symptoms)が加わることで、がん悪液質に移行するリスクが高まります。手術による侵襲や放射線治療、抗がん剤治療の副作用など、食事がとれない原因を明らかにしたうえで対応する必要があります。また、がん関連体重減少、つまり飢餓状態にあると考えられる人でもがん悪液質の併存の可能性を疑い、早期から介入していくことが重要になります。

抗がん剤の副作用への対応

抗がん剤の副作用による体重の減少は、治療開始直後からみられる急性悪心・嘔吐、食欲低下などが大きな原因になります(図2)。

図2 抗がん剤の副作用発現時期

抗がん剤の副作用発現時期

●悪心・嘔吐

抗がん剤による悪心・嘔吐には、治療開始後24時間以内に起こる急性の悪心・嘔吐と、24時間より後に起こる遅発性の悪心・嘔吐があります。抗がん剤治療開始から1~2週目には食欲低下や悪心・嘔吐などの副作用は回復してきますが、同時期に味覚障害や口内炎、下痢などの副作用が現れ始めることが多く、食欲低下や食事量の減少が続くことがあります。

抗がん剤治療に伴う吐き気・嘔吐のリスクが高い抗がん剤には次のようなものがあげられます(図3)。

図3 抗がん剤の催吐性リスク

抗がん剤の催吐性リスク

抗がん剤による悪心・嘔吐は、事前からの制吐剤投与によってその影響を抑えることができます。「抗がん剤治療は吐き気がつらいもの」と我慢してしまう患者さんは少なくありません。制吐剤を使っても悪心・嘔吐がある場合には我慢せず医療従事者に伝えるように指導しましょう。また、なかには抗がん剤治療への不安から吐き気の症状が出ることがあります。この場合は制吐剤ではなく、抗不安薬を使います。

吐き気がある女性

●口内炎・口腔乾燥

頭頸部がんの放射線治療や抗がん剤治療によって口腔内の粘膜が傷ついたり、唾液の分泌が減少したりして口内炎が起こります。抗がん剤の種類によっても異なりますが、約30~40%と発生頻度の高い副作用であり※3)、食事や氷片などを口に含んで口腔内を冷やし、口腔粘膜への影響を軽減するなどの工夫が必要です。口内炎や口腔乾燥によって食事から十分な栄養摂取ができない場合には経腸栄養剤などの活用も検討します。

がん治療前からの口腔ケアも重要です。口腔内保清、保湿のためには水や生理食塩水、アルコールを含まない(刺激が少ない)含嗽剤を使用して起床時、毎食前後、就寝時など、歯みがき後にうがいを行います。1日4~8回が目安です。

うがいをする女性

口内炎による軽度から中等度の痛みに対しては局所麻酔薬による含嗽、アセトアミノフェン、NSAIDsなどの消炎鎮痛薬、半夏瀉心湯の服用のほか、非吸収性ハイドロゲルによる口腔病変の被膜、保護などを行います。

●口腔ケアについてはこちら

心理的な影響による食欲低下

がん患者さんの多くは、がんと診断されたことによって不安や落ち込みを感じます。それ自体は心の動きとして自然なものですが、不安や落ち込みが強く、眠れない日が続いたり、集中力が低下したり、食欲がなくなったりして、日常生活にも影響が出ることがあります。

この不安やつらい気持ちは人と話すことで軽減することがあります。しかし、日常生活にも支障をきたしているような不安や落ち込みがある場合には、がん治療自体にも影響を及ぼすことが考えられるため、主治医に相談のうえ専門医の受診につながるよう支援します。

<文献>

※1)  Takayama K, Atagi S, FImamura F et al.:Quality of life and survival survey of cancer cachexia in advanced non-small cell
lung cancer patients-Japan nutrition and QOL survey in patients with advanced non-small cell lung cancer study.
Support Care Cancer, Aug 24:3473-3480, 2016.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27003901/
(2024年10月16日閲覧)
※2)  Lisa M, Pierre S et al.:Diagnostic criteria for the classification of cancer-associated weight loss J Clin Oncol. 33 (1):90-9, 2015.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25422490/
(2024年10月16日閲覧)
※3)  Josep M, Sílvia B et al.:Cancer cachexia: understanding the molecular basis. Nat Rev Cancer, 14 (11): 754-62, 2014.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25291291/
(2024年10月16日閲覧)
日本がんサポーティブケア学会:がん悪液質ハンドブック―「がん悪液質:機序と治療の進歩」を臨床に役立てるために.
http://jascc.jp/wp/wp-content/uploads/2019/03/cachexia_handbook-4.pdf
(2024年10月16日閲覧)
髙山浩一・田中理美:INVITED REVIEW ARTICLE がん悪液質の診断と治療.肺癌,62:180-187,2022.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/haigan/62/3/62_180/_article/-char/ja/
(2024年10月16日閲覧)
がん情報サービス:用語集 パフォーマンスステータス
https://ganjoho.jp/public/qa_links/dictionary/dic01/modal/Performance_Status.html
(2024年10月16日閲覧)
濱口哲也・三木誓雄:特集 がん患者の代謝栄養 がん患者の代謝と栄養.日本静脈経腸栄養学会雑誌,30(4):911-916,2015.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspen/30/4/30_911/_pdf
(2024年10月16日閲覧)
髙山 浩一 先生

京都府立医科大学大学院
医学研究科呼吸器内科学
教授 髙山 浩一 先生

1987年九州大学医学部卒業、1995年九州大学医学部附属胸部疾患研究施設助手、2000年アラバマ大学バーミンハム校に留学。2009年九州大学病院がんセンター化学療法部門長、翌年同大学大学院内科学呼吸器内科分野准教授を経て2015年より現職。京都府立医科大学附属病院がんゲノム医療センター長、同院がん薬物療法部部長、地域医療推進部長を併任。2023年同大学附属病院副病院長に就任。日本内科学会認定医、評議員、日本呼吸器学会専門医、指導医、代議員、日本肺がん学会理事、評議員、日本臨床腫瘍学会協議員、日本がんサポーティブケア学会評議員、日本がん治療認定医など。

この記事は2024年10月現在の情報となります。

×
第一三共エスファ株式会社の管理外にある
ウェブサイトに移動します。

TOP