併存疾患がある場合のがん治療中の栄養摂取
これまで肥満や糖尿病などの生活習慣病の治療を受けてきた患者さんの場合、「もう少し痩せましょう」「食事を減らしましょう」など、生活習慣病改善のための食事指導を受けています。こうした患者さんががん治療開始後に食欲が低下した場合、「体重が減るなら生活習慣病の治療にもよいのではないか」などととらえてしまうことがあります。また、がん治療後は「早く体力をつけなければ」と、がん治療開始前以上に食べてしまうこともあります。
生活習慣病などの治療を継続しながらがん治療を受ける患者さんの場合、体重を維持することでがん悪液質のリスクを抑えることが基本となります。ただし、がんの進行度や併存疾患の管理状況などによって食事指導の内容が異なることがあります。食事についての聞き取りを行う場合には、主治医や管理栄養士からどのような指導を受けているのかを確認し、薬剤師がアドバイスする際の内容に齟齬が出ないようにすることが大切です。また、抗がん剤の副作用がつらいなどの理由から併存疾患の治療を中断してしまい、それががん治療にも影響してしまうことがあります。服薬管理を行う薬剤師は、がん治療と併存する疾患の治療の両立を支援することが重要です。
がん治療終了後の生活指導
体重減少ががん関連によるものの場合、抗がん剤治療終了後には食欲の回復や体重が徐々に戻ることが見込めますが、食べすぎには注意が必要です。とくに生活習慣病を併存している患者さんは、がん治療が終わっても生活習慣病の治療が続きます。また、がんの再発予防のためにも生活習慣の見直しは重要です。
薬剤師は、複数の疾患で服薬している患者さんに対しても診療科の垣根を超えて継続的に服薬や生活指導を行います。がん治療終了後の体調管理や併存疾患の治療についてもその時々の患者さんの状況を把握し、適切な指導を行っていく必要があります。
●食生活の見直し
食生活の面では、塩分や塩蔵品のとりすぎ、野菜や果物不足、熱すぎる食べ物や飲み物を好んでとるといったことががんの原因になることがわかっています。がん治療後の食生活でもがんの原因になる食事のとり方を見直し、栄養バランスの良い食事を心がけるようにアドバイスします。塩分や塩蔵品のとりすぎは、高血圧の原因にもなるため、薄味の食事を習慣化することが大切です。
食生活の見直しを通じて、適切な体重、体格指数(BMI)を維持することは、生活習慣病のリスクを抑えることにもつながります。生活習慣病は加齢に伴い発症リスクが高くなります。がん治療を無事に完遂できても、生活習慣病から心筋梗塞や脳卒中などを発症することになりかねません。もっとも疾病のリスクが低いのがBMI22で、これが標準体重とされています(図1)。
図1 肥満度の分類
肥満の患者さんには、食事の内容だけでなく食事のとり方についても折に触れてアドバイスしていくことが求められます(表1)。
表1 肥満を防ぐための食事のとり方のポイント
- ゆっくりよく噛んで食べる
- 食べ物や飲み物が常にそばにある環境にしない
- 空腹の時間をつくり、我慢できないときにはカロリーが少ない食品を少量摂取する、歯みがきをするなど、別の行動で気分を変える
- 毎日体重測定を行い、記録する
●適度な運動
がん治療後は無理のない範囲で身体を動かすことが大切です。がんの種類や治療法(手術など)によってはリハビリテーションを受ける場合もありますが、それ以外でも自分に合う方法で身体を動かすことは、体力の回復やストレス軽減にもつながります。
がん治療後に活動量を急に増やしてしまうと疲労感が強くなります。家事や近隣への買い物などの頻度を徐々に増やしながら体力を向上させることが大切で、とくに仕事に復帰する場合には、計画的に身体活動量を増やしていきながら、元の生活リズムに戻していくことが重要です。
再発予防の効果については明らかではありませんが、身体活動量が多い人はがんの発生リスクが低くなるという報告もあります。元の生活リズムに戻ったら、身体を動かす習慣をつけていくことが大切です。運動を継続することは肥満の解消にもつながり、生活習慣病の予防や改善にも役立ちます。
●禁煙の継続
喫煙は肺がんをはじめ、食道がんや膵臓がん、胃がんなど、多くのがんのリスクになることがわかっています。また、高血圧や糖尿病、脂質異常症などをはじめとする生活習慣病においても喫煙は共通するリスク因子です。喫煙をしている患者さんに対しては、喫煙によるリスクを伝えるとともに、禁煙外来などの専門医受診を勧めます。
●節酒を勧める
過多な飲酒はがんになるリスクを高めます。1日あたり純エタノール量換算で23g程度までにとどめましょう(表2)。
表2 純エタノール量換算23g程度のアルコール飲料
- 日本酒 … 1合
- ビール大瓶(633mL) … 1本
- 焼酎・泡盛 … 原液で1合の2/3
- ウイスキー・ブランデー … ダブル1杯
- ワイン … グラス2杯程度
●質の良い睡眠をとる
人の身体は約24時間周期ではたらきが変動しています。これをサーカディアンリズムといいます。規則正しい生活を送ることで体温や血圧、脈、ホルモンの分泌などが規則的に変動するようになり、体調が整います。がん治療後は、無理のない範囲で日中に活動量を増やし、バランスの良い食事をとり、決まった時間に就寝するというリズムをつくります。それが疲労感の軽減だけでなく、胃腸の調子を整えて食欲の増進、規則的な排泄などにつながります。生活リズムを睡眠からつくっていくことで、整いやすくなります。
がん治療後もがんの再発や仕事、経済的な負担などに対する不安が続き、睡眠が十分にとれなくなったり、睡眠の質が低下したりする患者さんは少なくありません。また、高齢者は睡眠の質が低下しやすくなるため、「寝ているつもりでも疲労がとれない」「寝つきが悪い」など、睡眠で困っていることがあれば、早めに専門医を受診することをアドバイスします。
●がん患者さんの睡眠障害(不眠)についてはこちら
薬剤師はさまざまな疾患を併存している患者さんを継続的に支援することが求められます。体重コントロールにおいても、がん治療中だけでなく治療後にがんやその他の疾患リスクを軽減するための指導が求められます。
<文献>
・ | がん情報サービス:症状を知る 生活の工夫 療養生活のためのヒント 体調を整えるには
https://ganjoho.jp/public/support/hint/hikkei_03-02-01.html (2024年10月16日閲覧) |
・ | がん情報サービス:がんの予防・検診 がんの発生要因と予防 科学的根拠に基づくがん予防
https://ganjoho.jp/public/pre_scr/cause_prevention/evidence_based.html (2024年10月16日閲覧) |
・ | 桑原節子:特集 がん患者の代謝栄養 がん患者へのダイエットカウンセリング.日本静脈経腸栄養学会雑誌,30(4):933-936,2015.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspen/30/4/30_933/_pdf/-char/ja (2024年10月16日閲覧) |
京都府立医科大学大学院
医学研究科呼吸器内科学
教授 髙山 浩一 先生
1987年九州大学医学部卒業、1995年九州大学医学部附属胸部疾患研究施設助手、2000年アラバマ大学バーミンハム校に留学。2009年九州大学病院がんセンター化学療法部門長、翌年同大学大学院内科学呼吸器内科分野准教授を経て2015年より現職。京都府立医科大学附属病院がんゲノム医療センター長、同院がん薬物療法部部長、地域医療推進部長を併任。2023年同大学附属病院副病院長に就任。日本内科学会認定医、評議員、日本呼吸器学会専門医、指導医、代議員、日本肺がん学会理事、評議員、日本臨床腫瘍学会協議員、日本がんサポーティブケア学会評議員、日本がん治療認定医など。
この記事は2024年10月現在の情報となります。