排尿障害の症状とQOLへの影響
頻尿や尿もれなどの悩みは他人に相談しにくく、悩みがあってもひとりで抱え込んでしまう患者さんが少なくありません。患者さんが話しやすい環境をつくること、医療従事者側がその悩みを傾聴する姿勢を示すことが重要です。
排尿障害に対する機能の評価には国際前立腺症状スコア(International Prostate Symptom Score:IPSS)などが用いられることがあります。患者さんが自ら症状を訴えてきた場合には、こうしたスコアの活用も有効ですが、患者さん自身が「がん治療を受けたのだから仕方がない」「年齢のせい」と思い込んで口に出さないこともあります。
また、がん治療による排尿障害は、「がんを治療してもらった主治医に、後遺症がつらいとは言い出せない」「恥ずかしくて言い出せない」という患者さんも少なくありません。日常生活への支障やつらさがあっても一人で抱え込んでしまったり、外出を避けたりするようになってしまうことがあります。そのため、患者さんが気になっていることについて聞き取りながら、評価を行っていくことが重要です。
【患者さんからの主観的な情報収集:質問例】
質問例 |
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いま、一番つらい症状は何ですか? |
治療後の生活で困っていることはありますか? |
体調の変化や気になる症状はありますか? |
【排尿障害に関する質問例】
質問例 |
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1日に何回くらいトイレに行きますか?以前より回数は増えていますか? |
夜、トイレのために起きることはありますか? |
トイレに行くたびに尿はたくさん出ますか? |
トイレが終わった後はすっきりしますか? |
くしゃみをしたときなどに尿がもれてしまうことはありますか? |
急いでトイレに行っても間に合わなかったことはありますか? |
尿もれの程度は下着が湿るくらいですか?衣類まで濡れてしまうことはありますか? |
自分では気づかないうちに下着が濡れていたことはありますか? |
尿もれパッドや失禁用の下着などを使っていますか? |
患者さんからの聞き取りを行うときは、排尿障害があることで、患者さんがどんなことに困っているかという視点が重要です。こうした質問のなかで「トイレが近くなった」「尿もれがある」など、排尿に関する悩みが聞かれることがあります。
ただし、患者さんは尿に関する直接的な質問には答えにくいこともあります。雑談のなかから患者さんの悩みが引き出されることもあるため、「あまり水分はとらないようにしている」「尿の悩みによいという漢方薬って効果はあるの?」「水に触るとトイレに行きたくなる」といった患者さんからの情報を逃さないようにしましょう。
排尿障害の原因は、がんやその治療によるものだけとは限らないため、医師による診断が必要なこと、治療やセルフケアによって改善する可能性があることなどを伝えたうえで、患者さんの思いに耳を傾けることが大切です。
日常生活(水分、コーヒー等の摂取、便通、運動習慣など)
排尿障害は、がんやがん治療によるもの以外が原因となっていることがあります。生活習慣のなかにその原因がないかどうかを確認します。
【日常生活に関する質問例】
質問例 |
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夜はしっかり眠れますか? |
水分をとるときにはどのような飲料を1日にどのくらい飲みますか? |
コーヒーやお酒はよく飲みますか? |
冷えを感じることはありますか? |
病院を受診する以外で、どのくらい外出しますか? |
●水分
過度な飲水が原因となっていることがあります。2L/日以上水分をとっている場合は水分摂取を減らします。とくに夕方以降に水分摂取が多い場合、夜間頻尿の原因になることがあります。
●コーヒーやアルコール
利尿作用のあるコーヒーやアルコールの飲みすぎは頻尿の原因となります。とくに夕食以降の摂取は、夜間多尿の原因になります。
●便秘
便が長く直腸内にとどまることが尿失禁の原因になることがあります。
●運動習慣
運動習慣は、排尿障害の改善につながることが知られているため、運動習慣の有無を確認します。
排尿障害を引き起こす可能性がある薬剤のチェック
排尿障害の原因薬剤にはさまざまな領域の薬があります(表1)。薬剤師は患者さんの排尿障害の症状や困っていることなどの情報を収集し、患者さんが服用している薬の情報と合わせてチームで共有する必要があります。
表1 排尿障害を引き起こす可能性がある薬剤
排尿障害 | 薬の種類 |
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排尿症状を引き起こす
可能性がある主な薬剤 |
オピオイド、筋弛緩薬、向精神薬、抗不安薬、三環系抗うつ薬、ビンカアルカロイド系薬剤、消化性潰瘍薬、抗不整脈薬、抗アレルギー薬、抗パーキンソン薬、抗めまい薬、メニエール病薬、総合感冒薬、低血圧治療薬、抗肥満薬、頻尿・尿失禁・過活動膀胱治療薬、気管支拡張薬、鎮咳薬、鎮痙薬 など |
蓄尿障害を引き起こす
可能性がある主な薬剤 |
抗不安薬、中枢性筋弛緩薬、抗がん薬、アルツハイマー型認知症薬、抗アレルギー薬、交感神経α受容体遮断薬、勃起障害治療薬、狭心症治療薬、コリン作動薬 |
※赤字はがん患者さんの使用頻度が高い薬
受診勧奨のポイント
排尿の悩みによって日常生活に支障を感じている場合には、医療機関の受診が勧められます。排尿障害の原因を明らかにしたうえで適切な治療を行うことが症状の軽減につながること、生活習慣の見直しやセルフケアなども有効な場合があることを知ってもらうことが大切です。
また、薬剤が原因となっている可能性がある場合、中止や薬剤の変更が可能かどうかの検討が必要です。医師がその判断を行うためには、薬剤師からの服薬状況や服用している薬の副作用などの情報提供が欠かせません。
排尿障害が起こりやすいとされるがん手術を受けた患者さんで、術後時間を経てから排尿障害が出現することがあります。この場合はがんの再発や前立腺肥大症などの別の病気が隠れている可能性があるため、早期に受診を勧めます。
他職種との連携と情報共有
排尿障害には、心因性のものもあり、がん治療を受ける患者さんの強い不安が原因となっていることも考えられます。その原因を見極めるためには、がんと診断されてからの経過や患者さんが受けたがん治療、服用している薬のほか、患者さんの心理的負担なども含め、各職種が専門的な視点から情報を共有することが重要となります。
<文献>
・ | 日本緩和医療学会緩和医療ガイドライン委員会編:がん患者の泌尿器症状の緩和に関するガイドライン2016年版.金原出版,2016. |
・ | 日本泌尿器科学会:男性下部尿路症状・前立腺肥大症診療ガイドライン.リッチヒルメディカル,2017. |
・ |
国立長寿医療センター泌尿器科:一般内科医のための高齢者排尿障害診療マニュアル(改訂版)
https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/urination_manualv2.pdf |
・ | 小山基:外科医が知っておくべき術後QOL評価のすべて 結腸・直腸.外科,南江堂,83(4):338-343,2021. |
・ | 寒河江和子,国重敦子,堀美智子:服薬指導実践塾第16回 頻尿・尿失禁.調剤と情報,じほう,15(4):89-99,2009. |
医療法人社団誠馨会セコメディック病院
訪問診療部部長 緩和ケア外科部長 地域連携室長
三浦 剛史 先生
1993年日本医科大学医学部卒業、1994年日本医科大学泌尿器科学教室、日本医科大学付属病院等勤務を経て、2004年日本医科大学千葉北総病院Pain management teamに参加。2006年に緩和ケアチームリーダー緩和ケア委員会委員長に就任。2015年、三井記念病院緩和ケア科部長、2017年セコメディック病院泌尿器科緩和ケア部長を経て、2023年より現職。泌尿器科専門医・指導医、日本緩和医療学会認定医等。日本泌尿器科学会前立腺癌診療ガイドライン協力委員、日本緩和医療学会泌尿器症状ガイドライン改定WPG員長などを務める。
この記事は2023年11月現在の情報となります。