がん患者さんの感染症予防

がん治療時の感染予防(1)外出時

近年は日常生活を送りながら、外来で抗がん剤治療を受ける患者さんが増えています。仕事や家事などの役割を果たしながらがん治療を受けられるため、経済的にも精神的にもメリットが大きいといえるでしょう。

ただし、体調がすぐれないときには外出を控えましょう。食料品の買い出しなど、家族が代われるものは家族が担う、宅配サービスを利用するなどの工夫も大切です。

外来でのがん治療はメリットがあるものの、感染症予防の観点では、感染管理が徹底されているなかでの入院治療とは異なり、患者さん自身の管理が重要となります。感染症は、人から人へ伝播するものが多く、特に人と接する機会が多い外出時には注意が必要です。

外出時の感染予防のポイント

外出時に特に注意が必要なのが飛沫感染、接触感染です。新型コロナウイルス感染症の予防対策として普及した「3密」の回避は、その他の飛沫感染や接触感染による感染症を防ぐためにも重要な対策といえます。

●人ごみを避ける

飛沫感染は、飛沫に含まれたウイルスが体内に入り込むことで感染します。鼻や口から吸い込むことで気づかぬうちに感染してしまうため、人との接触をできるだけ避けることが予防策となります。

仕事はフレックスタイムやオフピーク通勤を活用し、電車内が混雑する時間帯を避けましょう。買い物は、平日の人が少ない時間帯を選ぶなど、できるだけ混雑している場所は避け、外出時には正しくマスクを着用することが大切です。また、最近は換気の重要性が強調されています。室内にいるときには、適宜換気をして空気の入れ替えを行いましょう。

●石けんでの手洗い

外出時には、電車やバスのつり革や手すり、エレベーターのボタンなど、不特定多数の人が触れたものに触ることがあります。ウイルスなどに感染した人が触れたものからウイルスが手に移り、その手で目や鼻、口などに触ると感染します。つり革や手すり、エレベーターのボタン、駅のごみ箱などの公共物に触れた後、トイレを使用した後、食事の前などにはこまめに手を洗いましょう。

外出時の服装

感染症は、外部と接している部位で起こりやすくなります。また、紫外線による刺激を避けたり、怪我や虫さされなどを防いだりするために、肌の露出が少なめの衣服を選ぶとよいでしょう。

マスクの選び方と装着法

マスクは、装着している人からの飛沫を防ぐことが主な目的で、話し手、聞き手双方が装着することで感染防止効果をより高めることができます。

マスクは、フィルターがウイルスをキャッチして拡散されるのを防ぐものです。ウイルスの粒子は非常に小さなものですが、飛沫には水分が含まれているため、マスクのフィルターによって遮断することができるのです。

●マスクの選び方

細菌やウイルスは非常に小さなもので、たとえばインフルエンザウイルスは直径0.1μm(=10000分の1㎜)、緑膿菌(細菌)は1μmです。肉眼では見えない血液中の赤血球でも6〜8μmの大きさがあることからも、非常に小さなものであることがわかります。

市販されているウレタンマスクや布マスクでは、ごく小さなウイルスや細菌を遮断することは難しく、飛沫感染防止効果は低くなります。感染対策として使用する場合には、一般的な不織布マスクを装着しましょう。

【マスクの性能表示】

表示 性能 内容
BFE バクテリアろ過効率 細菌を含む約3.0μmの粒子を捕集できる割合
PFE 微粒子ろ過効率 約0.1μmの微細な粒子を捕集できる割合
VFE ウイルスろ過効率 約0.1〜5.0μmの生体ウイルスを捕集できる割合

不織布マスクは性能表示があります。たとえば、「PFE99%」と表示されているものは、約0.1μmの粒子を99%捕集することができるという意味です。インフルエンザウイルスや新型コロナウイルスの粒子は約0.1μmです。高い確率でこれらのウイルスを捕集できる性能を有しています。マスクを購入する際に確認するとよいでしょう。

●マスクの装着法

マスクは顔の大きさに合うものを選びましょう。また、正しく装着してこそ性能を発揮することができます。次の手順で装着しましょう。
(1)鼻の形に合わせてすき間をふさぐ

(2)あごの下までマスクを伸ばし、あごや頬にすき間ができないようにフィットさせる

帰宅後、マスクをはずすときは、マスクの表面を触らないようにし、ひもの部分からはずしましょう。マスクを廃棄したら手洗いをします。

正しい手洗い方法

手洗いは、感染予防において重要なポイントとなります。特に外出時は気づかないうちに多くのものに触れてしまいます。食事前や帰宅後、トイレ使用後など、手が汚れたときにはすぐに手洗いをします。特に手洗いの前に目や鼻、口に触れないように注意しましょう。

●手洗いの方法

(1)流水で手をしっかりと濡らし、石けんをつけて手のひらを十分にこすり洗いします

(2)手の甲に泡を伸ばすようにこすり洗いをします

(3)指先と爪の間をしっかりとこすり洗いします

(4)指と指の間を洗います

(5)親指と手のひらをねじるようにして洗います

(6)手首をねじるようにして洗います

最後に石けんを十分に流水で洗い流し、清潔なタオル(ペーパータオルなど)で拭き取りましょう。手洗い後はハンドクリームで保湿します。

CDC(米国疾病対策予防センター)は、手洗いしながら「ハッピーバースデーソング」を2回歌うことを推奨しています。だいたい、20〜30秒ほどかかります。楽しく時間をかけて手洗いしたいですね。

荒岡 秀樹 先生
国家公務員共済組合連合会虎の門病院
臨床感染症科部長
荒岡 秀樹 先生


和歌山県立医科大学卒業
東京厚生年金病院内科、杏林大学医学部第一内科(呼吸器内科)を経て、2007年に虎の門病院に赴任。日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本感染症学会専門医・指導医・評議員、日本臨床検査医学会臨床検査専門医、日本化学療法学会抗菌化学療法指導医・評議員、日本臨床微生物学会認定医・評議員・理事、インフェクションコントロールドクター(ICD)の認定資格を取得
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