がん治療に伴うしびれや
痛みなどの症状

がん治療に伴うしびれや痛みなどの症状

がん治療に伴うしびれや痛みなどの症状

抗がん剤による治療にはさまざまな副作用がありますが、使用する抗がん剤の種類によって、末梢神経が障害され、手足のしびれや違和感、痛み、筋力低下を起こすことがあります。


しびれや痛みの症状は、患者さんによって感じ方が異なります。「手足がピリピリする」といった感覚的な症状もあれば、何かに触れるとビリっとして痛い、手足に力が入らないなどの感覚の変化を感じる人もいます。

また、手足以外に口のまわりがしびれたり、のどが締めつけられる感じがしたり、耳が聞こえにくくなるなどの症状が出る人もいます。

これらの症状によって入浴、衣服の着脱、食事、トイレ、薬の内服などの身の回りのことや食事の準備、日用品や衣服の買い物、電話の使用、お金の管理などができなくなることがあります。しびれや痛みがあって、日常生活動作に何らかの支障をきたしている場合には、医師に相談しましょう。


【症状の程度】

痛みの程度を5段階で表すとどのくらいですか。痛みがないときを0、これまでに経験したことがない我慢できないほどの痛みを5としたときに、自分の痛みが0~5のうちどこに当てはまるでしょうか。

Face Pain Scale(※1より引用)

【しびれ・痛みの感じ方】

しびれや痛みの感じ方は人によってさまざまです。その一例を紹介します。

□ 手足がビリビリ、ジンジンする(感覚がおかしい)
□ 何かに少し触れただけで痛くてビリっとする(感覚が強い)
□ 手足に力が入りにくい
□ 手袋をはめているような感じがする(感覚が鈍い) など
※2を参考に作成


このほかにも「ずきずき痛い」「重く痛い」「にぶく痛い」「うずくように痛い」「焼けるように痛い」「つっぱるように痛い」「しめつけられるように痛い」などの痛み方があります※3。自分の痛みを言葉にして伝えることは難しいですが、自分の感覚をそのまま表現して医師や看護師に伝えましょう。

また、治療の継続を判断するうえで重要なのが、しびれや痛みがあることで日常生活にどのような影響が及んでいるかです。

次の例にあげるような日常生活での困りごとを具体的に伝えるとともに、それがあることによる気持ちの変化や心配なことなどについても相談しましょう。


【日常生活での困りごと】

□ 服のボタンがとめにくい
□ 物をよく落とす
□ 歩行がうまくできない
□ つまずくことが多い
□ 階段が上がれない
□ 文字がうまく書けない
□ 飲み込みにくい  など
※4より引用
しびれや痛みなどの原因

なぜがん治療によって手足にしびれや痛みなどが起こるのかについては、はっきりしたことはわかっていません。しかし、がん細胞の増殖を抑える作用のある抗がん剤のなかに、末梢神経の細胞にも障害を与えてしまうものがあるためと考えられています。

末梢神経は全身に及んでおり、大きくわけて次の3つがあります。

運動神経
全身の筋肉を動かす働き
感覚神経
痛みやしびれなどの感覚、皮膚の感覚や感じ方などを伝える働き
自律神経
血圧や体温、内臓の働きを調節する働き


抗がん剤の種類によっても症状が出始める時期や症状の出方や出やすさは異なり、糖尿病やアルコール依存症、非アルコール性肝疾患(NAFLD)を合併している人や低栄養の人は、しびれや痛みなどが出るリスクが高いといわれています※5、6。

しびれや痛みは、がん治療開始後2週間ほどで出始める人が多く、治療終了後は症状が徐々に回復していきます。しかし、症状の出方や期間は個人差が多く、なかにはがん治療が終わってもなかなか症状が改善しない人もいます。

しびれや痛みなどの治療

末梢神経障害は患者さんの感覚に障害が及ぶもので、外からは見えない副作用です。それだけに、患者さんからの訴えが重要となります。

また、末梢神経障害は一般的に「しびれ」や「痛み」などと表現されることが多い副作用ですが、患者さんによっては、「しびれはないけれどなんとなく動かしにくい」「排尿がしにくい」「汗がダラダラ出る」という症状が出ることもあります。これらの症状もがん治療に伴う末梢神経障害の可能性があります。

「最近つまずきやすくなった気がするけれど、年齢のせいだから仕方ない……」などと自己判断せず、早期に医師に相談しましょう。「医師に伝えたらがん治療を中断しなくてはならなくなる」「がん治療に副作用はつきものだから、がまんすべき」などと考える患者さんもいます。しかし、しびれや痛みなどの末梢神経障害は、別の病気でも起こることがあります。がん治療に伴うものか、別の病気によるものなのかなどを明らかにするためにも、医師の診察を受けることが重要です。

現在のところ、抗がん剤による末梢神経障害の症状を改善する有効な治療法はありません。しかし、経験的に使用されてきた薬などで症状が軽減する場合もあります。医師と相談しながら薬による治療を行うかどうかを検討しましょう。

早期に発見することで、日常生活上で気をつけたほうがよい行動や症状の悪化を防ぐ対策をとることができますし、抗がん剤の量を調整することで、しびれや痛みが強くなるのを防ぎながらがん治療を継続する方法もあります。

しびれや痛みなどで日常生活に
大きな支障があるとき

がん治療に伴うしびれや痛み自体は、生命に危険をもたらすものではありません。しかし、日常生活への支障が出ることでがん治療への意欲が低下したり、指先の感覚が鈍って熱さがわからずにやけどをしたり、つまずいて転倒するなどの大きな事故につながる危険もあります。しびれや痛みを少しでも軽くするとともに、危険を回避する行動をとりましょう。

ドクターからのひとことアドバイス

しびれや痛みはがまんしても改善はしません。末梢神経は全身に分布しているため、さまざまな症状として現れます。「最近出始めた症状は、もしかしたら抗がん剤による末梢神経障害かもしれない」と考え、早めに相談することが大切です。

古川 孝広 先生
公益財団法人がん研究会 有明病院
先端医療開発センター がん早期臨床開発部 部長
古川 孝広 先生


2000年札幌医科大学卒業後、2007年同大学大学院医学研究科修了。2010年にリレー・フォー・ライフ(RFL)マイ・オンコロジー・ドリーム(MOD)奨励賞を受賞し、米国MDアンダーソンがんセンターでの研修を経て、2014年国立がん研究センター東病院の先端医療科/乳腺腫瘍内科に着任した。乳がんを中心とした診療活動と新規抗がん薬の開発に尽力した後、がん研有明病院の先端医療開発センターがん早期臨床開発部長に就任。

この記事は2022年2月現在の情報となります。


【参考文献】

※1  Whaley L, et.al. Nursing Care of Infants and Children, 3rd ed, St. Louis Mosby, 1987..
※2  国立がん研究センターがん情報サービス:しびれ>しびれQ&A
https://ganjoho.jp/public/support/condition/peripheral_neuropathy/pnqa.html
※3  辻本千恵子:主症状からみるヘルスアセスメント 痛みを訴える患者のヘルスアセスメント がんの痛み全般の捉え方.がん看護,16(2):p158-161,2011.
※4  日本がんサポーティブケア学会:がん薬物療法に伴う末梢神経障害マネジメントの手引き2017年版
http://jascc.jp/wp/wp-content/uploads/2018/12/book02.pdf (2022年2月7日閲覧)
※5  Smith E M et al. The total neuropathy score: a tool for measuring chemotherapy-induced peripheral neuropathy. Oncol Nurs Forum. 2008; 36: 96-102.
※6  Stubblefield MD et al. A prospective surveillance model for physical rehabilitation of women with breast cancer. chemotherapy-induced peripheral neuropathy. Cancet. 2012; 118: 2250-60.
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