がん患者さんの睡眠障害(不眠)

睡眠の質を高める日常生活の工夫

寝つけない、眠りが浅いなどの睡眠の悩みは、生活リズムや環境を整えることで改善が見込めることがあります。睡眠の質を上げる主な生活習慣の工夫を紹介します。

日常生活の改善

質のよい睡眠をとるためには、日中の活動がポイントです。生活リズムを整え、運動、入浴などの生活習慣を見直しましょう。

【睡眠の主な役割】

●生活リズムを整えましょう
朝の目覚めとともに日光を浴びて体内時計をリセットしましょう。朝食をとることも体内時計のリセットになります。

●適度な運動で快適な眠り
がん治療中は運動量が低下しますが、動かずにいるとさらに体力が低下して疲れやすくなったり、気分が落ち込んだりして、さらに睡眠に影響が出る可能性があります。

●日中の昼寝は30分程度に
午後に深い眠りに入ってしまうと、夜に眠れなくなってしまいます。眠気が強くても寝床で横になるのは避け、軽いうたた寝にとどめましょう。

●入浴で寝つきを改善
入浴は、体温を一時的に上げることで寝つきをよくする効果があります。ただし、熱すぎる湯に長く入ると身体への負担がかかる可能性があります。38℃のぬるめのお湯で25〜30分、42℃の熱めのお湯なら5分程度にしましょう。寝つきが悪い人は、就寝直前の入浴は避け、寝る2〜3時間前に入浴を済ませましょう。

●寝る前のタバコや飲酒は避けて
コーヒーやチョコレートなどに含まれるカフェインには目を覚ます効果があります。寝つきが悪い人は就寝の5〜6時間前からコーヒーを飲むのを控えましょう。また、ニコチンの作用が寝つきを悪くします。タバコはがんの原因になるため、禁煙をしましょう。アルコールも睡眠の質を下げるといわれているため、“寝酒”も控えます。
 

●スマートフォンやパソコンなどを見ない

情報機器から出ているブルーライトは、体内時計のリズム(概日リズム)に影響するといわれています。寝床に入ってからのスマートフォンや就寝直前のパソコン操作は控えましょう。

睡眠に適した環境

睡眠の質は、寝室の環境によっても変わります。快適な眠りのために、寝室環境を見直してみましょう。


●温度・湿度を調整
夏と冬では室温に差がありますが、暑すぎても寒すぎても睡眠の質は下がってしまいます。季節によって室温の許容範囲は13〜29℃と差はありますが、季節にかかわらず寝床内の身体付近の温度が33℃前後になるのがよいといわれています。また、湿度は50±5%になるように調整しましょう。

●寝間着はしめつけのない吸汗性の高いものを
がん治療による発熱などで寝汗が強くなる場合があります。寝汗で夜間に目が覚めてしまうと睡眠の質の低下につながります。寝間着は綿素材などの吸汗性の高い素材のものを選びましょう。枕の高さも高すぎたり低すぎたりすると安眠を妨げる原因になります。

●寝室は照明や音が気にならないように調整を
寝室は明るすぎる照明を避け、蛍光灯は落ち着く暖色系のものにするとよいでしょう。就寝時に照明を消すと暗すぎて不安になる人は、常夜灯や間接照明などを使います。明け方にカーテンの間からさす光が気になる場合には遮光カーテンなどを利用しましょう。外部からの音が気になる場合にはベッドを窓側に置かないなど、家具の配置を変えるのも一案です。

■眠れないことにとらわれないことも大切

無理に眠ろうとすると、緊張して目がさえてしまい、さらに眠れなくなることがあります。いつもと同じ時間に寝床に入る習慣をつけることが基本ですが、寝床に入ってから30分以上眠れない場合には一度身体を起こして気分転換をしましょう。軽くストレッチをするなど、「眠らなければ」と考えるのをやめ、眠くなってから再び寝床に入ります。ただし、起きる時間は遅らせないようにしましょう。

●ストレス解消も大切

がんと診断されたときから、治療中、治療後まで、患者さんは多くのストレスを感じています。不安や落ち込みから睡眠が不足することも多く、それがストレスをさらに増大させる原因にもなります。自分なりのリラックス法をみつけましょう。

睡眠は環境による影響も大きく、生活習慣や寝室の環境が眠れない原因となっている場合もあります。一度自分の生活リズムや寝室の環境を見直してみましょう。

参考文献
<参考文献>
・小川朝生:眠る・休む 患者さんの休息が障害されるときにはなにが起こっているのか~その原因と症状マネジメント.がん看護,南江堂.25(5)増刊,2020.
・厚生労働省健康局:健康づくりのための睡眠指針2014
・厚生労働科学研究班・日本睡眠学会ワーキンググループ作成:睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン―出口を見据えた不眠医療マニュアル―
・三島和夫:ガイドラインを薬局店頭で活かす第27回睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン―出口を見据えた不眠医療マニュアル―.調剤と情報,じほう.19(9):1185-1191,2013.
・厚生労働省e-ヘルスネット:眠りのメカニズム
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-01-002.html
・厚生労働省e-ヘルスネット:快眠のためのテクニック -よく眠るために必要な寝具の条件と寝相・寝返りとの関係
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-01-003.html
・厚生労働省e-ヘルスネット:快眠と生活習慣
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-01-004.html
・厚生労働省労働基準局:情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドラインについて
・静岡県立静岡がんセンター:学びの広場シリーズこころ編 がんと情報につきあう方法
https://www.scchr.jp/supportconsultation/book_video.html

保坂隆 先生
保坂サイコオンコロジー・クリニック院長/聖路加国際病院 診療教育アドバイザー
聖路加国際大学臨床教授/京都府立医大客員教授
保坂 隆 先生


1977年慶應義塾大学医学部を卒業後、同大学精神神経科入局。1990年より2年間、米カリフォルニア大学ロスアンゼルス校(UCLA)精神科に留学。東海大学医学部教授、聖路加国際病院精神腫瘍科部長、聖路加国際病院リエゾンセンター長などを経て、現職。

この記事は2023年5月現在の情報となります

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