がん治療に伴うしびれや
痛みなどの症状

しびれの悪化予防と危険回避のポイント


末梢神経障害があることで怪我や事故につながることがあります。しびれなどの症状の悪化予防や注意すべきポイントを紹介します。

保温+寒冷刺激を避ける

保温をするとしびれなどの症状が緩和されたり、逆に冷えるとしびれや痛みが悪化する場合があります。体温が奪われるような服装は避け、血行をよくすることを心がけましょう。

●しびれがある場所は保温を

冷えは末梢神経障害の大敵です。しびれなどがあるときは、室内でも手袋をはめたり、夏場でも靴下を履いたりと、露出を避ける衣類の工夫で冷えを防ぎましょう。

冬は帽子やマフラー、手袋、厚手の靴下などを利用し、夏でも布製の手袋やストールなどを役立てましょう。

●保温や血行改善に役立つ衣類の選び方

衣類は、きつすぎないものを選びましょう。靴下は、はき口がゆったりした保温性の高い厚手のものにすると、冷え予防に役立ちます。

衣のひとことアドバイス

症状の悪化を防ぐには、露出を避け、夏でも汗をこまめに拭き取るなどして冷えないようにすることが大切です。衣類だけでなく、靴もきつすぎるものは血行が悪くなる要因になるため、避けましょう。

一方、ゆるい靴も脱げやすく転倒リスクとなるため、注意しましょう。紐靴はサイズ調整がしやすく便利ですが、手の指先がしびれて紐が結べないことがあります。マジックテープなどでサイズ調整が楽にでき、靴裏が滑りにくい靴を選ぶのがポイントです。

アクセサリーや時計などによる指や腕の締めつけも、しびれの悪化の原因になることがあります。がん治療中は腕時計を外し、スマートフォンや携帯電話の時計機能などを活用しましょう。

血行改善に役立つ入浴時の手足の運動

手足がしびれているときは、温めたり動かしたりすることで症状がやわらぐことがあります。日常生活のなかに、手や足の指のグーパー運動やマッサージを取り入れましょう。入浴時は血行がよくなっているため、湯船につかりながら行うことで症状が緩和しやすくなる可能性があります。

怪我とやけどに注意しましょう

調理時に手のしびれや痛みがあると、包丁で手を切ってしまったり、包丁を落としたりする危険があります。また、調理中、食事中ともにやけどには注意が必要です。

●ピーラーやフードプロセッサーを使う

しびれや痛みで包丁が握りにくくなります。少ない力で食材を切ることができる特別な形状の包丁もありますが、怪我のリスクを避けるために、できるだけ包丁を使わずに調理できる方法を選びましょう。料理はさみやピーラー、フードプロセッサーなどが便利です。

●便利なカット野菜を使う

野菜を水洗いするときにもゴム手袋を忘れないようにしましょう。包丁による怪我を防ぎ、水による寒冷刺激も避けられるのが、水洗い不要のカット野菜です。最近では、サラダや野菜炒め、鍋用など、作りたい料理に合わせて選べるようになっています。

●調理中のやけどに注意する

末梢神経障害があると、熱に対する反応が鈍り、やけどをする可能性があります。筋力低下を伴う場合もあり、重い鍋やフライパンを落としてしまったり、触れてもすぐに気づかないこともあります。ガスコンロの使用は最小限にとどめましょう。

食のひとことアドバイス

第一に、包丁や火による怪我を回避することが重要です。
また、洗い物はゴム手袋をはめてお湯を使うなど、細やかな配慮で症状の悪化を防ぐことができる可能性があります。食事は毎回のことで、それが症状の悪化を招くと、QOL(生活の質)が低下します。安全に負担なく行えるように工夫しましょう。

転倒ややけど、細かい作業に気をつけましょう

足がしびれているときは転倒しやすくなります。転倒で骨折すると、がん治療の継続が困難になるだけでなく、高齢者では活動性が低下して寝たきりになるリスクもあります。そのほか、細かい作業でも怪我のリスクがあります。あらかじめ対策をとっておくことが大切です。

●転倒の原因となるものは取り除く
足のしびれや筋力低下によって、治療開始前には気に留めるほどでもなかった段差につまずいたり、バランスを崩して転んだりしやすくなります。歩くときには、かかとから着くように心がけ、太ももを上げることを意識しましょう。室内履きも滑りにくいものに変えて、脱ぎ履きは座って行います。

【注意する場所と対策】

注意する箇所 工夫・対策
床の段差
  • 見切り材を使って段差を解消する
  • 段差に目立つ色のテープを貼って段差があることをわかりやすくする など
部屋の床
  • 不要なカーペットやマットは取り外す
  • カーペット等を使用する場合は、滑らないようにしっかり床に固定する
  • カーペットは、床の色に近いものは避け、境目を明確にする
  • 部屋の床に物を置かない
  • 電気コードは長くならないように整理する
  • 夜間に足元を照らすライトを設置する など
階段の段差
  • 手すりを使ってゆっくり昇り降りする
  • 踏み面に滑り止めシートを貼る
  • 段鼻に色付きの滑り止めをつける
  • 物を持ったり抱えたりした状態で階段を使わない など
玄関
  • 段差が大きい玄関は踏み台などを設置する
  • 手すりをつける など
浴室
  • 浴室の床や浴槽のなかに滑り止めマットを敷く
  • 床と浴槽の間に手すりやバスボードなどを設置する など

●暖房器具などによるやけどを防止する
身体を温め、血流をよくすることは症状の軽減につながる可能性がありますが、入浴時や暖房器具によるやけどにも注意が必要です。

やけどの
危険が
あるもの
対策
風呂
  • 湯船に手を入れて風呂の温度確認をしない
  • 水温計で温度を確認する など
暖房器具
  • 湯たんぽを使うときは湯の温度を低めにして短時間の使用にとどめる
  • 湯たんぽは直接に触れないところに置く
  • 使い捨てカイロの使用は短時間にとどめる
  • ストーブなどの暖房器具に近寄りすぎない、長時間近くにいないようにする

●爪切りなどの細かい作業に工夫を

しびれや痛みによって細かい作業がしにくくなります。たとえば、爪切りは深爪や皮膚に傷をつけてしまう原因となります。爪が伸びたときには爪やすりで軽く削る程度にとどめておきましょう。

また、わずかな操作ミスが大きな事故につながりかねないのが車の運転です。がん治療中は車の運転を控えたり、避けるように指導されることがありますが、手足のしびれや痛みは、がん治療が終わってもすぐに回復しない人もいます。治療終了後も手の感覚が鈍ったり、筋力が低下してハンドルやブレーキ操作に不安があるときは無理をせず、ほかの人に運転を頼みましょう。

●椅子に座る生活を心がけて

床に直に座ることでしびれの症状が強くなることがあります。とくに正座は血行が悪くなりやすいため、椅子に座る生活を心がけましょう。

住のひとことアドバイス

しびれや痛みがあることで、転倒ややけどを起こしやすいことを理解したうえで、回避行動をとることが大切です。しびれや痛みは治療が始まってから少しずつ強くなっていくケースが多く、日によっても症状の出方が異なるため、無理をしないことが大切です。

古川 孝広 先生
公益財団法人がん研究会 有明病院
先端医療開発センター がん早期臨床開発部 部長
古川 孝広 先生


2000年札幌医科大学卒業後、2007年同大学大学院医学研究科修了。2010年にリレー・フォー・ライフ(RFL)マイ・オンコロジー・ドリーム(MOD)奨励賞を受賞し、米国MDアンダーソンがんセンターでの研修を経て、2014年国立がん研究センター東病院の先端医療科/乳腺腫瘍内科に着任した。乳がんを中心とした診療活動と新規抗がん薬の開発に尽力した後、がん研有明病院の先端医療開発センターがん早期臨床開発部長に就任。
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