がん患者さんの体重コントロール
がん患者さんの体重減少の原因
がん患者さんに多くみられるのが体重の減少で、がん治療やその副作用が原因で起こることがあります。全身状態が悪化してがん治療が困難になったり、生命予後に影響を及ぼしたりすることがあります。
体重減少によるがん治療への影響
がんやがん治療に関連する体重減少には大きくわけて、（1）がん関連体重減少、（2）がん誘発性体重減少（がん悪液質）があります。患者さんのがんの進行度などによって両方の原因が影響し、体重減少が起きていることがあります。また、がんの進行に伴ってがん誘発性体重減少（がん悪液質）の影響が大きくなっていきます。
がん治療中の体重減少は、患者さんの予後（病気の経過や見通し）に影響することがわかっています。また体重減少によって抗がん剤治療時の副作用が強く出たり、感染症にかかったりしたときに重症化しやすくなることも明らかになっています。抗がん剤の副作用が強く現れてがん治療の継続が困難になることもあります。食事量が減って体重が減少すると体力の低下や疲労が強くなりやすく、日常生活にも影響が生じます。
がん関連体重減少とは
がん関連体重減少は、がんやがん治療によって食事のとり方に影響する症状（NIS：nutrition impact symptoms）をいいます。NISには、がんがあることによる栄養摂取・消化や吸収への影響、消化管を切除する手術、放射線治療や抗がん剤治療の副作用、がんによる心理的な影響、痛みなどがあります。
これらの原因から、食事をとること自体に苦痛やつらさを感じることで、徐々に食事量が減って食べられなくなっていきます。体重を維持するために必要な食事がとれない、つまり食べられないことによってやせるものです。がんやその治療に伴う体重減少は、治療終了後に食事量が徐々に増加することで回復していきますが、治療中から体重をできるだけ維持することががん治療を乗り切るうえで重要となります。
抗がん剤の副作用による体重減少
食事がとれなくなるのは、抗がん剤開始直後からの吐き気や嘔吐が大きな原因となります。また、抗がん剤開始1～2週目には副作用による食欲低下や吐き気・嘔吐は徐々におさまっていくものの、味覚障害や口内炎、下痢などの副作用が現れ始めることで、十分に食事がとれない時期が続きます（図1）。
図1 抗がん剤の副作用発現時期
●吐き気・嘔吐
抗がん剤による吐き気や嘔吐の副作用は、抗がん剤の種類によって症状の出やすさが異なります。吐き気や嘔吐が出やすい抗がん剤を使う前には吐き気を抑える薬を使い、食事への影響を軽減します。副作用の出方には個人差があります。吐き気や嘔吐がある場合には医療従事者に相談しましょう。なかにはがん治療への不安が強く、それが吐き気の症状につながることもあります。その場合も薬を使うことで症状が軽減することがあります。我慢せずに相談してください。
●口内炎・口腔乾燥
抗がん剤の種類によっては、口のなかの粘膜が傷ついたり、唾液が出にくくなったりして口内炎ができることがあります。がん治療開始前から口腔ケアをすることや、がん治療時には、氷片などを口に含んで粘膜を冷やし、抗がん剤の影響を抑えるなどの工夫をしましょう。口のなかを清潔に保つことは、口内炎の感染症リスクを軽減することにもつながります。水や生理食塩水、アルコールを含まないうがい薬などを使い、起床時や毎食前後、就寝前など、1日4～8回を目安にうがいをすると乾燥を予防することができます。
また、口内炎や口のなかの乾燥が強く、痛みで食べることがつらい場合には、少量でエネルギーが確保できるゼリーなどでエネルギーを補うことも有効です。
痛みが強いときには痛み止めの薬や漢方薬などを使うことがあります。また、口腔内をゲル状の膜で覆うことで保護することも有効です。つらい症状で食事がとれないときには医療従事者に相談しましょう。
●味覚障害についてはこちら
心理的な影響による食欲低下
がん患者さんの多くは、がんと診断されたことによって不安や落ち込みを感じます。それ自体はごく自然なことですが、不安や落ち込みが強く、眠れない日が続いたり、集中力が低下したり、食欲がなくなったりして、日常生活にも支障が及ぶことがあります。
この不安やつらい気持ちは人と話すことで軽減することがあります。しかし、日常生活にも支障をきたすような不安や落ち込みがある場合には、主治医に相談のうえ、専門医の診察を受けましょう。
がん治療中の副作用やそれに伴う症状を「仕方がない」と我慢してしまう患者さんは少なくありません。しかし、体重減少の場合は必ずしも副作用の影響とは限りません。副作用に対する治療を受けること、定期的に体重測定を行ってエネルギー摂取量が不足していないかどうかを確認しましょう。
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教授 髙山 浩一 先生
1987年九州大学医学部卒業、1995年九州大学医学部附属胸部疾患研究施設助手、2000年アラバマ大学バーミンハム校に留学。2009年九州大学病院がんセンター化学療法部門長、翌年同大学大学院内科学呼吸器内科分野准教授を経て2015年より現職。京都府立医科大学附属病院がんゲノム医療センター長、同院がん薬物療法部部長、地域医療推進部長を併任。2023年同大学附属病院副病院長に就任。日本内科学会認定医、評議員、日本呼吸器学会専門医、指導医、代議員、日本肺がん学会理事、評議員、日本臨床腫瘍学会協議員、日本がんサポーティブケア学会評議員、日本がん治療認定医など。
この記事は2024年10月現在の情報となります