がん患者さんの睡眠障害(不眠)

こんな症状はありませんか? 睡眠障害(不眠)の原因と症状

がん患者さんの睡眠の悩みの原因や症状はさまざまです。また、睡眠に必要な時間は個人差が大きく、年齢によっても睡眠時間は変わります。他人と比べて時間が短いからといって不安を感じる必要はありませんが、疲労感や倦怠感、集中力の低下などを感じるときは医療従事者に相談しましょう。

がん患者さんの不眠の原因

がん患者さんの不眠の原因はさまざまで、眠れない原因が1つだけとは限りません。

【がん患者さんの主な不眠の原因】

がんによる痛みやがん治療に伴う吐き気、下痢などの症状、がん治療に伴う生活環境の急激な変化、がんと診断されたことによるショック、不安、悩みなどで不眠を経験する患者さんは少なくありません。また、一部の抗がん剤やその副作用を軽減するための薬が不眠の原因になることもあります。

たとえば、抗がん剤の副作用対策として使われるステロイド薬には不眠の副作用があり、なかには不眠が2~3日続く患者さんもいます。眠れないことでさらに不安が強くなって不眠が悪化することもあるため、副作用とその対処方法については、事前に薬剤師に説明を受けましょう。

このほか、がんやその治療とは直接関係のない身体の不調、うつ病や適応障害、せん妄などが原因となっていることもあります。がんと精神症状の関係は深く、これらの治療を並行して行うことで睡眠が改善することもあります。

がん患者さんの不眠のタイプ

不眠の状態が続くことで、疲れがとれない、だるさが続く、集中力が低下するほか、抑うつやめまい、食欲不振などの症状が出て、がん治療にも影響が及ぶことがあります。

【寝つきが悪い】

夜、寝床に入って目を閉じても60分以上寝つけない状態です。

【夜間に何度も目が覚める】

眠りが浅く、夜間に何度も目が覚める状態です。一度目が覚めると再び寝つくまでに時間がかかることもあります。

【早朝に目が覚めてしまう】

起床目標の時間よりも前に目が覚めてしまう状態です。早朝に目が覚めて再び寝ようとしても寝つけないこともあります。

このほか、しっかり寝たはずなのに眠った感じがしない(熟睡感がない)と感じることもあります。

ただし、不眠のすべてががんやその治療による影響とは限らず、不眠の原因となる別の病気を合併している場合もあります。ほかの病気がなく、不眠の症状があることで日常生活に支障をきたしている期間が3か月未満の場合には短期不眠症、3か月以上続く場合には慢性不眠症と診断されます。

睡眠に関する症状は、数日程度であれば問題にならないことが多いですが、不眠と日常生活に支障が出るほどの不調が週3日以上続く場合には、医師による診察と治療を受けましょう。

がんの診断後、なかなか寝つけなくなった、夜間に目が覚めてしまうなど、睡眠への影響が出る患者さんは少なくありません。生活の質(QOL)を維持しながらがん治療を継続させるためにも、気になることがあれば早めに医療従事者に相談しましょう。

参考文献
・上村恵一:上村恵一:「緩和・サポーティブケア最前線」Ⅱ 生活することを阻害する心の変化とケア 眠ることを阻害する症状 睡眠障害のメカニズムと治療.がん看護,南江堂.20(2):183-187,2015.
・米国睡眠医学会著・日本睡眠学会診断分類委員会訳:睡眠障害国際分類第3版 慢性不眠症.ライフ・サイエンス.3-15,2018.
・厚生労働省e-ヘルスネット:不眠症
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-02-001.html
・小川朝生:眠る・休む 患者さんの休息が障害されるときにはなにが起こっているのか~その原因と症状マネジメント.がん看護,南江堂.25(5)増刊,2020.
・横枕令子:主症状からみるヘルスアセスメント 精神症状を呈する患者のヘルスアセスメント 睡眠障害を訴える患者のヘルスアセスメント.がん看護,南江堂.16(2)増刊:212-216,2011.
・国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所睡眠・覚醒障害研究部:睡眠障害国際分類(ICSD-3)
・平澤俊之・井上雄一:特集患者指導、医師のこの一言が患者を変える 疾患別指導 睡眠障害、不眠症.診断と治療,診断と治療社.110(8):1025-1028,2022.
・本多真:ICD-11「精神,行動,神経発達の疾患」分類と病名の解説シリーズ各論12 睡眠・覚醒障害(Sleep-wake Disorders).精神神経学雑誌,日本精神神経学会.124(3)192-197,2022.

保坂隆 先生
保坂サイコオンコロジー・クリニック院長/聖路加国際病院 診療教育アドバイザー
聖路加国際大学臨床教授/京都府立医大客員教授
保坂 隆 先生


1977年慶應義塾大学医学部を卒業後、同大学精神神経科入局。1990年より2年間、米カリフォルニア大学ロスアンゼルス校(UCLA)精神科に留学。東海大学医学部教授、聖路加国際病院精神腫瘍科部長、聖路加国際病院リエゾンセンター長などを経て、現職。

この記事は2023年5月現在の情報となります

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