がん治療に伴うしびれや
痛みなどの症状
衣食住の工夫
がん治療中に手足のしびれや痛み、筋力低下などの末梢神経障害が生じると、日常生活のさまざまな場面で支障をきたします。しびれや痛みの程度は個人差が大きく、すべての患者さんが不便さを感じるわけではありませんが、あらかじめ対処法についての情報を得ておくことで、自分に合う方法を試したり、自分なりのやり方を探したりしやすくなります。
衣
洋服のボタンが留めにくい/ファスナーが上げにくい
手足にしびれや痛みがあることで、細かい作業がしにくくなります。洋服のボタンやファスナーの引き手は小さいものが多いため、うまくとめられずに焦ってしまったり、ストレスになってしまったりすることがあります。洋服の脱ぎ着は毎日行うため、症状が強くなる前に対策しておくとよいでしょう。
●かぶるタイプの洋服を選ぶ
両手を通して頭からかぶるデザインの洋服は、手に症状がある人でも比較的着脱がしやすいといえます。前ボタンのパジャマを使っている人も、症状が強くなる前にかぶるタイプのものを買い揃えておくと便利です。
●前開きの洋服のボタン面ファスナーに変えておく
面ファスナーは手先を細かく動かす必要がなく、襟元から外側に向けて開くことで着脱が可能です。前開きのデザインの洋服にボタンを飾りとして縫い止めておき、面ファスナーをつけておくことで、ボタン付きの洋服のように見えながら、実際の着脱は面ファスナーで行うこともできます。
寒冷刺激を避けようとして着ぶくれしてしまう
冷たい外気に触れたり、冷えたりすると手足のしびれや痛みを強く感じることがあります。それを防ぐために着ぶくれしてしまい、自分らしいおしゃれができなくなり、気持ちが沈んでがん治療にも前向きに取り組めなくなってしまうことがあります。
●機能性の高いインナーの活用
保温効果が高い薄手のインナーやレギンスなどが便利です。ただし、締め付けがきついとかえってしびれや痛みを増強させる要因になるので注意しましょう。首もと、手首、足首を冷やさないようにすると身体の熱が逃げにくく、冷え予防に役立ちます。
手のしびれや痛みは、がん治療終了後徐々にやわらいでいくケースが多いため、普段着ている前開きの洋服を面ファスナーにアレンジしたり、毎日着るパジャマだけ着脱しやすいものに変えるなどの工夫で乗り切りましょう。
食
箸が使いにくい/道具が使えずに調理ができない
手先のしびれや痛みで箸が上手に使えず、食事に時間がかかったり、食事量が減ったりする人もいます。また、調理の際はキッチングッズを活用しましょう。
●握りやすいスプーンやフォーク
普段使っている箸が使いにくいときは、ホルダー一体型の箸やスプーン、フォークを使いましょう。外食時にも自分用の箸やスプーン、フォークを持ち歩くと安心です。福祉用具店で相談したり、見本の商品を握ったりして自分に合うものを探すとよいでしょう。
●瓶やペットボトルは補助用具を活用
筋力が低下して缶や瓶が開けにくくなることがあります。家族に協力してもらったり、すべり止めになるゴム手袋をしたり、蓋にかぶせるシリコンオープナーなどを使うと開けやすくなります。外出時のペットボトルの飲料を購入した場合は、ペットボトルキャップに付け替えるなどの工夫をしましょう。
●電子レンジを活用する
調理は電子レンジを活用してコンロの使用をできるだけ少なくしましょう。IHクッキングヒーターは、調理後トッププレート面が十分冷えたことをおしらせランプなどで確認してから触れるようにしましょう。
●調理や食器洗いは手袋を使って
鍋やフライパンを持つとき、電子レンジから皿を取り出すときには、ミトンや厚手の布などを使いましょう。
食器洗いはゴム手袋をして温水で行いましょう。厚手のものを使うことで寒冷刺激を受けにくくなります。
がん治療に伴うさまざまな症状でお料理が大変だと感じている人に役立つ調理器具もあります。がん治療が終了し、症状が改善された後の普段の料理づくりにも活用できる便利な器具を紹介しています。
がん情報サイトAssist 患者さんのためのアシスト お役立ちキッチングッズ
https://oncology-assist.jp/public/goods/
手のしびれや痛みがあって調理がしにくいときには、キッチングッズやカット、調理済商品が便利です。熱さを感じにくくなっているため、ガスコンロの使用はできるだけ避け、電子レンジを活用します。ただし、電子レンジから皿を取り出すときには必ずミトンなどを使い、直接皿に触れないようにしましょう。
住
重いものや熱いもの、冷たいものに触れない工夫
手のしびれで重いものを持つことができない、熱いものや冷たいものに触れると、やけどをしたり、しびれが増す原因になります。
●重いものを持たない工夫
手のしびれや痛みで重いものが持てずに困ってしまう、買ったものを落としてしまうなどの支障が出ることがあります。
主に家事を担っている人の場合、自分の役割が果たせないと感じてしまい、気持ちが沈んでしまうことがあります。大きな買い物は家族に頼み、負担にならないものを持つ、一度の買い物で大きな荷物にならないように、こまめに買い物に行くなどの工夫をしましょう。ネットスーパーや購入済の商品の宅配サービスなどを有効に使いましょう。
●寒冷刺激を避ける工夫
ステンレス製のドアノブやタイル貼りの浴室などは触れるだけでもヒヤッとし、しびれや痛みが悪化することがあります。金属製のものはカバーをつける、浴室のタイルには緩衝マットを敷くなどして直接皮膚に冷たい部分が触れないようにします。入浴時は、浴室暖房であらかじめ浴室を温めてから入るようにするなどの工夫をしましょう。
●血行をよくする工夫
寒いとしびれや痛みが強くなることがあります。暖房器具も上手に活用して身体を温めることを心がけましょう。ただし、熱さへの対応が鈍っているため、湯たんぽなどを使う場合は、就寝前に布団の外に出して低温やけどを防ぐなどの工夫が必要です。
飲み物は、常温か温かいものを選ぶようにします。ただし、熱すぎるものはやけどの原因になるため、気を付けましょう。飲み物は取っ手のついたマグカップを使い、やけどを予防します。
ステンレス製のドアノブに触れたり、洗面所で手を洗ったときなど、普段何気なく行ってきた行動で寒冷刺激を受けて症状が悪化してしまうことがあります。また、暖房器具との距離を保ち、手で温度を確かめるのではなく、設定温度を確認する習慣をつけましょう。
先端医療開発センター がん早期臨床開発部 部長
古川 孝広 先生
2000年札幌医科大学卒業後、2007年同大学大学院医学研究科修了。2010年にリレー・フォー・ライフ(RFL)マイ・オンコロジー・ドリーム(MOD)奨励賞を受賞し、米国MDアンダーソンがんセンターでの研修を経て、2014年国立がん研究センター東病院の先端医療科/乳腺腫瘍内科に着任した。乳がんを中心とした診療活動と新規抗がん薬の開発に尽力した後、がん研有明病院の先端医療開発センターがん早期臨床開発部長に就任。
この記事は2022年2月現在の情報となります。