がんに伴う排尿トラブルと
セルフケア
排尿トラブルの治療と生活のポイント
がんやその治療に伴う排尿トラブルは、日常生活の改善やトレーニングによって軽減することがあります。さらに治療には薬や手術という選択肢もあります。頻尿や尿もれといった排尿の悩みは他人に打ち明けにくく、気になって徐々に外出を避けるようになるなど、負担を感じる人は少なくありません。そんなときは医療従事者にご相談ください。
生活習慣の改善(水分摂取、肥満、ストレス解消など)
排尿障害は、がんやがん治療以外の原因で起きていることもあります。トイレの回数や尿の量が増えやすい生活習慣を見直してみましょう(表1)。
表1 生活習慣のチェック
(1)水分を1日2L以上とっている
(2)水分は日中よりも夕方以降にとることが多い
(3)夕食以降にコーヒーやアルコールを飲む習慣がある
(4)便秘がちである
(5)日ごろあまり運動をしない
このうち(1)~(3)のいずれかに当てはまる場合には、まず水分(コーヒーやアルコールを含む)のとり方を見直しましょう。人が1日に必要な水分摂取量は、表2が目安です。食事でも水分は摂取するため、体重が60kgの人で1,200~1,500mL程度が1日の必要水分摂取量です。
表2 1日に必要な水分摂取量の算出方法
1日3回摂食可能な患者さんの場合
食事以外の水分摂取量:体重の2~2.5%
24時間尿量:体重1kgあたり尿量20~25mL
例:体重50kg=1,000~1,250mL、体重60kg=1,200~1,500mL
ただし、トイレが近くなるからといって水分を必要以上に制限するのは避けましょう。水分が不足すると脳梗塞や心筋梗塞のリスクになるといわれており、熱中症にかかる人も増えます。自分がどのくらい水を飲むのが適正なのかをあらかじめ知っておくと、水分のとりすぎや不足を防ぐことができます。
●水分摂取の時間帯
夕方以降に水分をとりすぎると夜間の頻尿につながり、睡眠の質の低下の原因にもなります。水分は日中にとることを心がけましょう。また、コーヒーなどのカフェインを含む飲み物やアルコールは利尿作用があり、夜間に何度もトイレに行く原因になります。夕食以降は控えましょう。
●排尿日誌による記録
排尿日誌は、自分の現在の尿意がどのくらいの時間帯に多いのか、摂取している水分量はどのくらいかなどを記録するものです。医師や患者さん自身が水分摂取量や、トイレの頻度、尿量がどのくらいかを知ることで、生活習慣の見直しに役立てたり、医師の治療方針の決定に役立てるものです。
排尿日誌のつけ方はこちら
●体重の管理
肥満の人は、減量によって尿もれが軽減することがあります。バランスの良い食事や適度な運動で適正体重を維持することが重要です。がんの治療によって体重に影響が出ることもあるため、体重を測る習慣をつけることも大切です。食事や運動に関して不安なことや困っていることがあれば、医療従事者に相談しましょう。
●便秘の予防
便秘があると膀胱が圧迫されてトイレの回数が増える原因になります。がん治療中に食事や水分が十分にとれなくなったり、運動量が減ったりすると腸の蠕動(ぜんどう)運動が低下して便秘を起こしやすくなります。また、がんと診断されたり、がん治療を受けることに対する不安なども便秘の原因になることがあります。
普段の食事で食物繊維が豊富な海藻類や豆類などを積極的に取り入れ、便秘を予防しましょう。適度な運動は、便秘だけでなく排尿障害の軽減につながることもあります。
なかには薬が原因で便秘が起こることもあるので、生活習慣を見直しても改善がみられないときには医療従事者に相談してください。
自分で行う排尿障害に対する治療
排尿トラブルに対するセルフケアとして、膀胱訓練や骨盤底筋トレーニングがあります。膀胱訓練は、膀胱に溜められる尿の量を徐々に増やしていく訓練方法で、骨盤底筋トレーニングは、前立腺や膀胱、子宮などを支える筋肉(骨盤底筋群)を鍛えることで臓器を正しい位置に戻し、尿道や肛門を締めやすくすることで尿もれなどを防ぐ効果が期待できます。
膀胱訓練、骨盤底筋トレーニングのやり方、排尿日誌のつけ方はこちら
薬や手術による治療
薬によって膀胱を収縮させる力を増強させたり、尿道の開きをよくしたりする作用のある薬を服用することで、排尿障害が改善することがあります。がん治療などが原因の排尿障害の場合には、徐々に症状の改善がみられることが多いものの、頻尿や尿もれがあることで日常生活に支障をきたしており、生活習慣の改善やセルフケアだけでは改善しない場合には薬による治療を行います。ただし、服用している薬が排尿トラブルの原因になることもあるため、薬を飲み始めてからの症状の変化についても記録しておきましょう。
このほか、骨盤底筋や膀胱排尿筋などを電気や磁気で刺激する方法や人工尿道括約筋の手術を行うこともあります。電気や磁気で刺激する治療は骨盤底筋トレーニングとの併用が一般的です。手術による治療は、がんの治療後1年が経過しても尿失禁が続く場合などに検討します。詳しくは医療従事者にご確認ください。
<文献>
・日本緩和医療学会緩和医療ガイドライン委員会編:がん患者の泌尿器症状の緩和に関するガイドライン2016年版.金原出版,2016.
・日本泌尿器科学会:男性下部尿路症状・前立腺肥大症診療ガイドライン.リッチヒルメディカル,2017.
・厚生労働省:重篤副作用疾患別対応マニュアル 尿閉・排尿困難
https://www.pmda.go.jp/files/000240111.pdf
・厚生労働省:「健康のために水を飲もう」推進運動
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/topics/bukyoku/kenkou/suido/nomou/index.html
・がん情報サービス:尿がもれる・トイレが近い もっと詳しく
https://ganjoho.jp/public/support/condition/urine01/ld01.html
・国立長寿医療センター泌尿器科:一般内科医のための高齢者排尿障害診療マニュアル
https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/urination_manualv2.pdf
・本田正史ほか:前立腺癌診療のコツ 前立腺全摘除術の排尿リハビリについて.ESPOIR,メディカルレビュー社,3(1):36-39,2020.
・中村一郎:特集 ひとつ上を行く!がんの症状緩和実践的ノウハウ がん患者の泌尿器症状のマネジメント 頻尿・尿失禁のアセスメントと治療.月刊薬事,じほう,59(3):83-91,2017.
・丹波光子:特集排尿ケアとリハビリテーション 前立腺癌術後、婦人科がん術後がん患者.総合リハビリテーション,医学書院,45(10)1019-1023.
訪問診療部部長 緩和ケア外科部長 地域連携室長
三浦 剛史 先生
1993年日本医科大学医学部卒業、1994年日本医科大学泌尿器科学教室、日本医科大学付属病院等勤務を経て、2004年日本医科大学千葉北総病院Pain management teamに参加。2006年に緩和ケアチームリーダー緩和ケア委員会委員長に就任。2015年、三井記念病院緩和ケア科部長、2017年セコメディック病院泌尿器科緩和ケア部長を経て、2023年より現職。泌尿器科専門医・指導医、日本緩和医療学会認定医等。日本泌尿器科学会前立腺癌診療ガイドライン協力委員、日本緩和医療学会泌尿器症状ガイドライン改定WPG員長などを務める。
この記事は2023年11月現在の情報となります